こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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以前の記事で、防水透湿素材を前編・後編としてまとめました。
防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 前編
防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 後編
前編では、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)つまりテフロン™と呼ばれるフッ素系樹脂を用いたアメリカ発繊維「ゴアテックス」を紹介しました。
さらに、これに負けじと東レから開発された、ウレタン樹脂を用いた「ダーミザクス」と「エントラント」を紹介しました。
いずれも、「雨は通さないけれど、湿気は逃がしたい」という難問に対し、それぞれの製品がどのような解を提示したかが良くわかりました。
今回は、さらに新しい防水透湿素材「AMPHITEX(アンフィテックス)」をご紹介します。
これは、防水透湿の機構として、魚のエラからインスピレーションを受けたまさにバイオミミクリーがキーワードとなっている製品です。
また、それだけではなく、原料のリサイクル、有害物質の排出規制など、現時点における様々な課題に対しても解決する可能性のあるスタートアップ製品であるといえます。
今回はそれらについて調べてみたいと思います。
フッ素化合物の使用規制と「ゴアテックス」
1970年代に華々しく登場した「ゴアテックス」はPTFE樹脂から出来ています。

これはテトラフルオロエチレンというフッ素と炭素でできたフッ素樹脂で、化学的に極めて安定です。
その特性が故、繊維に限らず、あらゆる分野において用いられていますが、極めて安定であるということは、廃棄されるといつまでも環境中に蓄積されてしまいます。
また、加工性が良くないため、ポリエステル樹脂のようにリサイクルすることも難しい素材です。
さらに、PTFE自身は無害なのですが、PTFEの製造や加工の過程において排出される低分子のフッ素化合物は、PFC、PFASなどと呼ばれ、人体に対して健康被害を長期的にもたらす可能性が指摘されています。

そのため、PFASの環境・健康リスクを懸念し、世界的に製造・使用が規制される可能性があります。
そんなわけで現在「ゴアテックス」はこれらの規制に対する対応に苦慮しています。
異色のイギリススタートアップ「AMPHICO(アンフィコ)」と新素材「AMPHITEX(アンフィテックス)」
AMPHICOのWebサイトを訪れると、まさに彼らの開発した新素材「AMPHITEX(アンフィテックス)」は「ゴアテックス」の存在を課題として全面に見据えた設計およびプロモーションをしていることが分かります。
また、驚くべきことに、この会社のCEOは亀井潤氏。
東北大工学部化学バイオ工学を専攻後、アカデミアにて材料科学の基礎研究を続けるのではなく、より事業化に近いプロダクトデザインを学びたいと考え、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)に留学、その後2018年にイギリスで「AMPHICO(アンフィコ)」を起ち上げました。
「AMPHITEX」はポリエチレンやポリプロピレンといったオレフィン系ポリマーであり、リサイクルを可能にするため、すべてこのポリマーで糸から防水膜を作り、ラミネート加工繊維を行うことで100%リサイクル可能な製品を作ろうとしています。



着想とマーケティング
亀井氏ご自身のWebサイトも面白いので、是非訪れてみていただければと思いますが、
もともとは、地球環境変動に伴い、人類がもしも水中で暮らさなくてはならなくなったら…というストーリーから人工エラの研究を行っていたとのことですが、そこから派生し、実用化しやすいテキスタイル業界で防水透湿素材のマーケットにたどり着いたそうです。


もちろんゴアテックスという最競合が控えているわけですが、市場としては3000億円程度で、競合他社はまだ数社しかありません。
さらに先述したようにフッ素化合物に対する規制、SDGsに対する関心の高まりなどが追い風となり、事業化への自信を固めたそうです。
実際、各種VCや大手繊維業者などから4億もの資金も獲得できました。
また、本社は環境意識の最も高いヨーロッパを拠点とすることで、業態の意義が理解されやすく、実際のモノづくりについては、クオリティーの高い日本の特に北陸に着目しており、ここでイギリスと日本とがうまく繋がりました。
また、染色は超臨界二酸化炭素などの無水染色手法も取り入れるなどして、できるだけ環境に配慮したプロセスで生産することで、現在主流の「ゴアテックス」から「AMPHITEX」へと移行した場合、どのぐらいの環境負荷低減効果があるかをLCA(ライフサイクルアセスメント)で示すことでその存在価値を数値化しています。

まだ具体的な製品化には至っていないようですが、2023年には開発を終了し、2024年から生産を開始するそうです。
まとめ
今回は、このAMPHITEXの構造については時間がなくて調べられませんでしたが、それよりも開発者である亀井氏の経歴や、着想に至るまでの開発過程がとても面白くて、そちらばかり調べてしまいました。
確かに、洋服は機能化や装飾化が進むと多様な異素材との組み合わせが必須になります。
しかし、それと引き換えに分別が難しくなり、リサイクルにおいては障害になってしまいます。
異素材を使った場合にも、それこそペットボトルのように廃棄の際には分別しやすくするなどの工夫が必要になるのではないかと思います。