生分解性プラスチックとは 様々な解釈の間で揺れる定義

プラスチック

こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

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人類がこの地球でできるだけ長い間生存できるような取り組みを真剣に考える必要が出てきました。

2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsはその最たるもので、国連に加盟する193カ国が2030年のまでに達成するために17の目標が掲げられています。

それらを受けて、社会的にインパクトの大きい事業を行うグローバル企業から積極的にSDGsのガイドラインに沿った取り組みを推進するようになってきました。

今回は特に「生分解性プラスチック」というものについて、考えてみることにします。

プラスチックの弊害と、それを解決する「生分解性」

プラスチックの語源は、もともと「形作る」であり、ここから熱や圧力などで自在に形を作ることのできる材料のことを指すようになりました。

石油化学工業の発達により、プラスチックの開発が進み、どんなに複雑な形状のものも安く簡単にかつ大量に作ることができるようになり、夢の素材になっていきました。

しかし、あまりにも多くの材料がプラスチックで作られるようになってしまったが故に、今や、プラスチックは石油資源の枯渇危機、温暖化、ゴミ問題、環境汚染など、人類の生存自体を脅かすほどの様々な弊害に完全に紐づいた、ちょっと厄介な素材であるともいえます。

そのため、プラスチック産業の生産、流通、利用に関わる多くの企業がSDGsを掲げた活動を積極的に進めています。

このブログでもそれらの取り組みを紹介してきましたが、大まかに分けて以下の項目のいずれかを達成するためのものであるといえます。

・石油の使用量を減らす(原料・燃料の削減)
・二酸化炭素の排出量を減らす(温室効果ガスの削減)
・汚染物質の排出を減らす(水・大気・土壌汚染の削減)
・生物多様性を維持する(過度の採取、開発の抑制)

今回ご紹介する生分解性プラスチックも上記弊害を解決すべく開発された新しい素材で、「生物によって分解される」プラスチックという意味なのですが、具体的にどういうことなのでしょうか?

現在、開発されている様々な製品例から、その特性を考えていきたいと思います。

各種「生分解性プラスチック」の捉え方

生物が作る素材から作れば生物が分解してくれるという考え方の素材

これはポリ乳酸(PLA)が代表格かもしれません。

乳酸は生物が作り出すことのできる酸であり、乳酸菌などの微生物に糖を与えることで工業的に大量生産することができます。

これをうまく高分子化することでプラスチックができることが知られていました。

しかし、石油由来のプラスチックに比べて、固くて脆い性質があり、色々な解決策が見出されてきました。

最も代表的な製品としてはユニチカの「テラマック®」があります。

ティーバッグ、浴用タオル、ゴミ袋、土木資材、食品容器などへの採用実績はあるようですが、耐久性が必要なアパレル製品には適していないようです。

それゆえこれまで色々な研究によってその物性を改善する試みが報告されていましたが、コストが高い、石油由来の成分を使うことになり生分解されにくくなってしまうという問題がありました。

そんな中、大阪大学発のベンチャー企業であるBioworksは、同じくポリ乳酸からできた可塑剤(プラスチックに加えることでしなやかさや柔らかさを増強することのできる添加剤)PlaXという新しいPLA製品を開発しました。

いよいよ生分解されるファッションアイテムが市場に現れる日が来るようです。

京都府 Webサイトより引用

ただし….実はポリ乳酸が生分解されるには、いくつもの条件を整える必要があり、まず加熱が必要なこと、微生物が豊富にいる場所(主に土の中)に一定期間晒しておく(土の中であれば埋める)必要があります。

このPlaXにおいても、「ある条件下で」分解する と記載があります。

つまり、加熱するのにある程度のエネルギーを加える(石油を使う)必要があり、さらに我が国では衣類のほとんどは焼却処理されているのが現実であり…。

というわけで、今のところ、カーボンニュートラル(糖の原料であるサトウキビやトウモロコシが、あらかじめ二酸化炭素を使ってくれているのだから、それを使ったポリ乳酸を焼却処分して二酸化炭素を出したとしてもプラスマイナスゼロでしょ?)という理論で、なんとかSDGsに矛盾しない恰好を保っている状況です。

また、以前の記事でも紹介した東レの新素材、100%植物素材から作られたPETがあります。

ただ、これが生分解されるかどうかの言及はありません。

たとえ、食べられる物質から作られた素材であっても、色々な過程を経ることで生物が分解できないものに変わってしまう可能性など、いくらでもあるのです。

となるとこの素材の価値は「生分解性」ではなく、「石油の使用を減らす」というところにあります。

生物が分解できるような仕掛けをいれて分解してもらうという考え方の素材

一方、もともと石油由来のプラスチックであっても、原子レベルまでつきつめると、炭素(C)と酸素(O)と水素(H)から出来ているものがほとんどです。

これらは生物の体も構成する基本的な元素です。

石油だって、地球上の生物の遺骸が長い時間かけて変質したものであるわけで、別に「石油=生分解しない」というわけではありません。

人間が、石油を原料にして生物が分解できないような複雑なパズルを組み立ててしまったことが原因なのです。

つまり、パズルの中に生物が分解できる仕掛けを規則的に組み込んでおくことで、それがうまく働いてくれた時、生分解されるようになります。

このような考え方の製品が「CRAFTEVO ReTE(クラフトエボ・リテ)」や「「CiCLO(シクロ)」です。

これらはアパレル製品で最も活躍しているポリエステルであり、もしこの技術が採用されたとしたら、大きなビジネスになるでしょう。

ただ、これらの製品は先のポリ乳酸のような「逃げ」は許されません。

つまり、この仕掛けを入れた以上、燃やしてしまっては何の意味もなくなってしまいます。

この製品は「必ず微生物に生分解してもらう」ことで、はじめてその存在意義が認められる製品になるため、確実に回収し、分解するためのインフラも含めて、製品の普及に努めています。

どっちがどうなんじゃい

どれも一長一短というか、条件付きであるところが、難しいですよね。

「生分解性」があることで、マイクロプラスチックの問題は解決するかもしれませんが、膨大な廃棄衣類を全部土に埋めることはナンセンスかもしれません。

ただ、複雑多様化した我々の社会において、すべてを一発解決する答えなどないのだと思います。

色々なパーツを組み合わせて、少しでも改善しようとするその姿勢に敬意を払いたいと思います。