こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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色彩の勉強をすると、アパレル製品の製造工程は、他の製品に比べて結構特殊だと思うかもしれません。
なぜなら、製品をデザインしたうえで、それに必要な色の布や糸・素材を準備し、それを使って作るのではないからです。
あらかじめ用意された色や質感の布や糸、素材を使って製品をデザインして作るのです。
そしてこの用意する色をかなり前から決めるのがインターカラーという団体であり、彼らがいわば資本主義的なカラーマーケットにおける「神の見えざる手」です。
今回はアパレル製品の特殊性と合理性について、またインターカラーについて少し調べてみたいと思います。
工業製品との比較からわかるアパレル製品の特殊性
ここであえて、工業製品と比較してみます。
工業製品の場合、すべての原料および部材が「規格化」されていて、これらを組み合わせることでほとんどの製品を正確かつ大量に作ることができます。
また、そこまで個人の嗜好性に寄り添う必要はなく、どちらかというとその機能が優先されます。
(近年は、工業製品にもデザイン性が重視されていますが、通常は製品表面を塗装したり、樹脂の場合は顔料を添加することでメーカー自身が容易に対応可能です。)

しかし、アパレル製品はそうはいきません。
もちろんサイズや原料などの規格化は進んでいますが、例えばどう組み合わせても配色バランスが整う10色でジャケット2種とスカート3種とパンツ3種とシャツ5種を用意して、さあ全人類の皆さんそこから好きなように選んでくださいね。といったところで、到底すべての人を満足させることはできない業界です。
それは、やはりファッションアイテムが、人の感情やその人の抱える周辺環境にも影響することが大きな原因だと思います。
皆、洋服で自己表現することを望み、あるいは洋服で他者(これは必ずしも他人ではなく、たとえば他地域、他校、他社、他国)との区別をすることで何らかのメリットやデメリットが生じる仕組みが無意識あるいは意識的に働くことを理解しているためです。
そのため、通常の工業製品であれば、まず顧客のニーズを市場調査し、製品のコンセプトが固まってから、さて原料を買ってこよう….という流れになるはずなのですが、
そうなると、あらゆる製品に対応した膨大な種類の布と糸を生産する必要が出てきます。
安く作ろうとすると大量に作らざるを得ず、無駄が生じます。また丁度いい量で作ろうとすると、コストが高くなります。
アパレル製品は本来自由度が高いことが望まれますが、多くの人に提供しようとすると、生産できなくなってしまうという特性があり、そこに特殊性があります。
インターカラーによる自由度の制限とそれによる合理化
自由度は奪われたくないけれど、アパレル製品があまりに高価で入手しにくいようでは困ります。
そうなると、一番大量に生産せざるを得ない糸や布をメーカーが共同購入することで、コストを下げるしかありません。
そうすると、どんな色や質感の布や糸を作るかが問題になります。
そこに、特に色という観点からお墨付きを与えるのがインターカラーというわけです。
インターカラー(国際流行色委員会)は1963年にフランス、スイス、日本を主導として発足しています。
現在は以下の17か国が加盟しています。加盟各国が提案色を持ち寄り、実シーズンに先駆ける約2年前の6月に春夏カラー、12月に秋冬カラーを選定しているそうです。

ここで選定された色をもとに、日本ではさらに一般社団法人 日本流行色協会(JAFCA)が、様々な分野に向けたトレンドカラー(JAFCAカラー)を提案します。
また、約1年前には試作された素材の展示会(世界3大素材見本市:ミラノ・ウニカ(イタリア)、プルミエール・ヴィジョン(フランス)、インターテキスタイル上海アパレルファブリックス(中国))が開催され、約半年前には展示会や発表会(世界4大コレクション:ミラノ、パリ、ニューヨーク、ロンドン)などが開催されます。
これらのトレンドを踏まえて、各種メーカーで大量生産された製品を、私たちはトレンドアイテムとして購入するという流れになっています。

インターカラーおよびJAFCAによってトレンドカラーが提起され、これに牽引されるかのようにトレンドアイテムは作られています。
なーんだ…と思うなかれ。これである程度ファッションにおける自由度を維持しつつ合理化できているといえるのです。
noteにも記載していますが、既製服を着ている以上、この大きな流れの中で誰もがもともとあるものを取捨選択して自分を表現しています。
そう思うと、これまでの流行においても、私たちが時代を作ったというよりも、彼らのシナリオ通りに行動しただけのような気もして多少混乱しますが…。
そんなわけで2023年春夏トレンドカラー
まあ、いつものことですが、蘊蓄をさんざん垂れた上で、ようやく具体的に最新の色についてのお話です。
インターカラーの提案
インターカラーは2023年のカラー予測として、以下のようなキーワードを挙げています。
ANOTHER EQUITABLE NORMAL
これは、少し前に流行ったNew normalというような、「誰もが公平に享受する今までにはない別の日常」というような意味でしょうか?
他にも、SDGs, 交流や協調、AIなど人間生活に関わるデジタルリソースなどが挙げられています。
その上でいくつかのテーマとともに、色や質感が提示されています。
あえて、この色です。というものにせず、ぼんやりとしたイメージで示されているように思えるのはあくまでも、ここから何を具体化するかは我々に任せるといったメッセージでしょうか?

JAFCAの提案
レディースウェア/メンズウェア/プロダクツ&インテリアの3種類のカラー提案がありますが、日本版ということでかなり具体的な説明があり、面白いです。
カラーテーマは
Now=Futureで今と未来は実はシームレスにつながっているというメッセージです。
その上で以下のようなカラーチャートを提示しています。それぞれに含蓄あるメッセージが添えられています(かなり独断で文章を勝手に意訳していますので、きちんと咀嚼したい方は是非リンク先でじっくり読んでみてください)。




そしてこのように具現化されていきます

ここには先のキーワードがふんだんに用いられております。
穏やかに輝く「ルミナスイエロー」
少し霧がかった「ヘイズグリーン」
冷静さや安らぎを感じる淡いパープル「デジタルラベンダー」
いずれも、前シーズンに流行ったビタミンカラー、ビビッドカラーではなく、穏やかなトーンの優し気な色味が多くなっています。
ビビッドカラーはどうも….と思っていた方には、朗報といった感じでしょうか?
こうやってトレンドは創られ、巡り巡っていくものなのですね….。