こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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YUIMA NAKAZATOというデザイナーについては、私がこのファッション初心者向けブログを開始してから、ちょくちょく耳にしていました。
記事には書きませんでしたが、NAKAZATOさんは、クモの糸から着想を得てBrewed Protein「ブリュード・プロテイン」を開発したSpiber社ともコラボレートしており、デザインだけでなく、衣服そのものの流れを真摯に考えているデザイナーの一人だと思いました。
ユイマナカザトのHPに「やがて衣服は一点ものしか存在しなくなるでしょう。」という印象的な言葉が綴られているように、どれもその流れにつなげていくべく首尾一貫した取り組みを続けています。
そんなNAKAZATOさんは23年春夏パリ・オートクチュールコレクションにおいて、エプソンの協力を得て作品を発表したそうです。
エプソンの2つの技術:らしい技術/らしくない技術
最新コレクションにおいて、エプソンの2つの技術を活用しています。
・デジタル捺染機「Monna Lisa(モナリザ)」を用いた高度なオンデマンドプリント技術
・「ドライファイバーテクノロジー」を用いた古着の繊維化技術
前者は、インクジェットプリンターでおなじみのエプソンらしい技術で、後者は非常にらしくない技術です。
エプソンらしい技術
捺染というのは、染料と糊を混ぜたもので布に模様を描き、固着させることを指します。
代表的な手法はシルクスクリーンなどがありますが、いずれにせよ布に模様を載せていくというイメージで良いのかなと思います。
精巧な模様を布全体に施そうとすると、複数の型を使って多色刷りをしたり手で描いたりということが必要ですが、これはまさにインクジェット技術で解決できることは容易に想像がつきます。
デジタル捺染機「Monna Lisa(モナリザ)」は、捺染業の盛んなイタリアの捺染印刷機メーカーと捺染処理技術を有するメーカーと共同で開発した技術だそうです。
まずは布に間違いなく精巧な模様を高速で印刷する技術はインクジェットプリンタで培ったインクヘッド技術を応用したのだと思いますが、それ以上に、例えば布の毛羽立ちや繊維くずを常時取り除く機構を有するなど、テキスタイルへの印刷だからこそ生じる課題を解決し、高品質なデジタル捺染を可能にした専用機です。
小ロットで、リードタイムが短く、洗浄処理などの必要がないため環境負担も小さいという特徴があります。
これはまさにNAKAZATOさんが掲げるコンセプトと合致しています。
エプロンらしくない技術
エプソンは2016年に面白い技術を世に出しています。
それは乾式オフィス製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」です。
これはオフィスで毎日大量に排出される古紙を、社内でまた新しい紙に再生するための装置です。
凄い技術で、内閣総理大臣賞など数々の受賞実績があります。
なぜプリンタを開発している企業が紙をつくるのか…と疑問に思いますが、シュレッダー処理による廃棄処分では不十分なレベルの機密文書を機密状態のまま廃棄しようとすると、かなりの手間とお金がかかるそうです。
これを見かねたエプソンの当時の社長が疑問を呈し、
社内で再現不可な程度まで(つまり繊維状に)処理し、それを、また文字通り白紙に戻すということを実現しようとしたのがきっかけのようです。
通常、紙は木材チップから得られたセルロース繊維を水に懸濁し、抄紙(いわゆる紙漉きです)して作られますが、これは一切水を使わないで再生紙を作ります。
企業は外部に出すことなく機密文書を処理でき、さらに新しい紙が戻ってくるという魔法の箱のような仕組みだと思います。
ただ、2000万円と価格が高く、大きさも2m四方ほどあるので、おいそれと導入できる企業は少ないようですが、ここで培ったドライファイバーテクノロジーが、役に立っています。

エプソンの2つの技術を用いた芸術的かつ社会的示唆に富んだYUIMA NAKAZATOのコレクション
NAKAZATOさんは23年春夏パリ・オートクチュールコレクションで、エプソンの2大技術を用いて、ケニアで大量に蓄積している先進国由来の古着を繊維化し、得られたテキスタイルに繊細なプリントを施すことで一点ものの作品へと仕上げました。



なぜケニア…?
調べると、どうやら先進国からいわば押し付けられた大量の古着は、今ケニアなどアフリカで飽和していてタダ同然の価格で売られているそうですが、これが今、現地のアパレル産業の成長を阻害し、さらに結局埋め立て処理をすることで環境を破壊する…。
我々が善意で送っている古着が実は大迷惑を被っているという皮肉。
今や深刻な社会問題に発展しているそうです。
詳細はこちらに….
NAKAZATOさんはそんな現状に対して強い問題意識を持って、最新コレクションで表現したのだと思います。
多様な切り口からモノ作りを考える姿勢に共通点があった
エプソンもYUIMA NAKAZATOも単に見栄えの良い製品を提供するのではなく、同時にそれ以上の価値を生み出すために多様な切り口から課題に向き合っているように思います。
ペーパーラボの動画を見ていると、単純にすごいな..と思います。
また、YUIMA NAKAZATOも、一般向けにオーダーメイドリメイクサービスであるFace to Faceという取り組みを続けているようです。
15分のディスカッションを経て、クライアントとともにリメイクをお願いする服に対する思いやリメイクのコンセプトや方向性を決定した後、1ヶ月程度で素敵がリメイクが施された、世界に一つしかない服が送られてくるのだそうです。
すごく魅力的ですが、30万円…。
もちろんそれを上回る価値があると思いますが、私には到底手が出ないお値段です。