こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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前回の記事において、サスティナブルな繊維としてカポック繊維を取り上げました。
木の実が作るフワフワの綿毛は、とても平和的でいかにも環境に良さそうなイメージが想起されます。
しかし、前回は繊維原料としてメジャーになれるほど優れているとはいえないと書きました。
というのは、世界の繊維生産量は過去20年間の間で倍増し、2021年は過去最高の1億1,300万トンでした。このまま上昇を続けると2030年までに1億4,900万トンにまで達することが予想されています(textileexchange.org より引用)。
そのうち約半分はご存じの通りポリエステル繊維で、これは石油由来につき、現在地球温暖化問題なども踏まえた使用削減が図られています。
これだけの繊維を自然の恵みだけで賄おうとするとさすがに色々な歪みが出てきます…。
それゆえの代替資源がカポックなのでしょう。
今回のお話は3話連続の第2話です。
第1話:綿花やダウンに替わるか、カポック繊維の可能性
第2話:サスティナブルナ繊維原料とは
第3話:カポック繊維原料は沖縄にだってあるんです
石油を使わない天然繊維の原料としての課題
天然繊維は植物由来のものと、動物由来のものがありますが、天然の繊維で我々の生活を最も支え続けてくれている代表的な繊維が現在抱える課題を簡単に見ていきたいと思います。
綿

綿は綿花から作られますが、生産国としては中国やインド、アメリカ、パキスタン、オーストラリアなどです。
いずれも農地で綿花を栽培して収穫するので極めて環境にやさしそうに思えます。
しかし、世界的な繊維原料としての膨大な需要を賄おうとすると、過度な肥料や農薬の使用とそれによる土壌や水の汚染、土地の開拓、労働力の搾取などの問題が大きくなります。
また、近年問題になった新疆ウイグル自治区のコットン不買運動は、世界3大綿の一つである「新疆綿」が、中国の少数民族であるウイグル族が中国政府による弾圧を受け、強制労働の結果生産されている可能性が示唆されたため、中国に対する抗議活動として、大手アパレルメーカーがウイグル自治区のコットンや製品の調達停止を発表したというもので、これは不安定な社会情勢が影響しています(ウイグル問題については色々なサイトが取り上げていますが、こちらも参考になります)。
現在のロシアによるウクライナ侵攻もそうですが、サプライチェーンが発達した現代、どこかで不穏な動きがあると、すぐさまその地で生産される重要な原料の供給が不安定になり、我々の生活に直接影響します。
そういう意味で、現在、綿花は価格の変動が激しく、非常に見通しの悪い原料として位置づけられています。
羊毛
羊の毛は、動物性繊維の中で最も多く使用されている繊維です。

これも見たままですが、なんとも牧歌的ですよね。
皮のように皮膚からはぎとるというようなものではなく、あくまでも伸びた毛を刈り取らせていただくわけで、すごくサスディナブルな原料だと思えます。
しかし、これも良く調べると、やはりそのものすごい需要に対応しようとすると、無理な畜養や品種改良に伴う様々な問題が多く発生しているようです。
例えば、品種改良の結果、毛をできるだけ多く採れるように皮膚の表面積を高めた(つまりシワが多くなっています)メリノ種は、そのシワの間に炎症が起こったり、虫が寄生したりという病気が多く発生するのだそうです。
そのため子羊の時期に最も汚れやすい臀部の皮膚を削いでおくという処理(ミュールジング)がなされているそうです。
今は、他の方法も検討されているようですが、これもアメリカを中心に批判を受けています。
羽毛(ダウン)と羽(フェザー)

ダウンは繊維ではありませんが、今回のカポックとよく比較されているので、取り上げます。
よく高級ダウンなどの謳い文句として、1羽から数gしか取れない部分のダウンをふんだんに使って…とかいうのを聞きますが、であれば我々はものすごい大量の水鳥からダウンを採取していることは想像に難くありません。
皮のように採取=死というわけではないようですが、やはり羽を抜いてしまうだけに、水鳥にとっては相当過酷な採取方法のようです。
ユニクロがレスポンシブルダウンスタンダード(RDS)という取り組みに賛同しており、これは
・生きたまま採取しない
・強制餌付けを禁止
・生産方法や流通経路の第三者機関による監視
だそうです。
しかし、これも、彼らへのせめてもの罪滅ぼしというか、我々ができることは、せいぜいこのぐらいですがやらないよりはましかもしれない..というような取り組みだと思います。
総合的に持続性を考える必要がある
これらの点において必ずしも生産者を責めることができません。
我々が欲しがるから、それに応えようとするとどうしても過剰な手法を取らざるを得ないと思います。
私たちは新しい(バージン)原料がもっともっと必要で欲しいのか…?
と改めて問いなおすと、やはり
・今捨てているものを再利用できないか?
・こんな原料も替わりにつかえるのでは?
・同じように原料を得るのであれば、このやり方に変えた方が良いのでは?
というアイディアをとにかく沢山集め、多少の難があっとしても、トータルでプラスになることであれば実行するしかないのかなと思います。
現在、国際NGO団体であるTextile exchangeが環境に配慮した繊維素材の普及を進めており、RDSもこの組織によって作られました。
そういう意味で前回のカポックは、どんなに生産量や繊維の品質が綿花に及ばなかったとしても、やはりサスティナブル(持続可能)な状態に近づける可能性があるのであれば、考えてみる必要があるのだといえるのではないでしょうか?
次回はそんなカポック繊維は沖縄にもあるというお話です。
第3話:カポック繊維原料は沖縄にだってあるんです