偽物を見破れ リサイクルとバージンPETを見分ける古くて新しい分析手法とは

繊維

こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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リサイクルPETを使うことが推奨されるにつれ、これまでは考えられなかった現象が起こります。

つまり、「この製品はリサイクルPET100%でできています」と謳いながら、実はバージンPETでできていた。とか、あるいはバージンPETを一部使用していた。というような不正行為です。

そのような事例はすでに発生しているらしく、環境省はグリーン購入法に伴う、製品の信頼性を確保するために、リサイクルPETの分析方法を公開しているとのことです。

ただし、その手法は結構煩雑とのことで、この度、画期的な手法が考案されたそうです。

どんな方法でしょうか?

グリーン購入法とは

グリーン購入法とは、環境省が2000年に制定した法律で、正式名称は「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」のことです。

簡単に抜粋すると、いわゆる環境にやさしい製品(法文には「環境物品」と記載されています)というのは、これまでのブログでも述べてきましたが、大概、既存品の性能は維持したまま、製造に使われている原料や技術などを環境負荷の小さいものに差し替えたものが多いので、既存品よりもコストが高く、性能や見た目などが異なることが多々あります。

特に開発直後は、通常の市場にいきなり投入したとしても一般消費者には受け入れにくく、既存品との市場競争に負けてしまうこともあると思います。

そこで、まずは国や独立行政法人などが率先して、これらの製品環境を購入し、積極的にそれをバックアップすることで、これらの普及を促進し、環境製品の需要の転換を図っていくというものです。

つまり、トイレットペーパーや事務用品などを含むあらゆる物品入札において、環境負荷を謳う製品を優先的に購入しますよということだと思います。

公的機関への大口注文が入るとなれば、確かに上述したような不正(ガイドラインでは不当表示(優良誤認)と記載されています)も起こり得ます。

そのため、環境製品であることを証明する何かを提出する必要があるのですね…。

例えば、「環境物品等の調達の推進に関する基本方針について」という資料の、制服についての判断基準の項目を読むと

①再生PET樹脂から得られるポリエステル繊維が、裏生地を除く繊維部分全体重量比で25%以上使用されていること。ただし、裏生地を除く繊維部分全体重量に占めるポリエステル繊維重量が50%未満の場合は、再生PET樹脂から得られるポリエステル繊維が、繊維部分全体重量比で10%以上、かつ、裏生地を除くポリエステル繊維重量比で50%以上使用されていること。云々….。

うわぁぁぁぁぁぁぁ!!細かすぎ!

たぶん、入札時に所定のフォームにこれらの証明書を事細かに記載して、代表印を押印し、第三者機関で分析した資料を添付して、窓口に提出して審査を……ムムム…
(もう、こういうお役所との手続き、なんとなく想像できてしまいますね~💦)

リサイクルPETであることを証明する方法

面倒な従来法

つまり、環境物品が本当に環境物品かどうかの信頼性を確保するための基準が設けられており、これが「特定調達物品等の表示の信頼性確保に関するガイドライン」というものです。

でた~「ガイドライン」!

PET樹脂の場合は、エチレングリコールとテレフタル酸という物質を重合(つなぎ合わせる)します。
その際、アンチモンやゲルマニウムなどの金属化合物を触媒(反応を早く進めるための物質)として使用します。

また、PET ボトル用にするためには強度が必要なため、さらに重合反応を進めます。

原料はすべて重合するわけではなく、一部重合できずに構造を変えて残留した不純物が存在していますが、PETボトル用の樹脂はさらに重合反応を進める際に、この不純物が重合し、含有量が減少するのだそうです。

これらの事実に着目し、2つの観点から分析手法が提案されています。

1.PETボトルからの再生PETを含む制服は、バージンのPET繊維から作られた制服よりもこの不純物の量が少なくなるといえます。

2.バージンのPET繊維から作られた制服は触媒として用いられた金属化合物が一種類しか検出できないのに対し、再生PETを含む制服には複数の金属化合物が複数検出されるはずです。


これらを分析するには、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)という技術や、ICP(高周波誘導結合プラズマ)という技術が使えますが、いずれも事前に原料を何らかの溶媒で処理して目的の物質を溶解させることが必要で、なかなか手間がかかります。

グリーン購入品の表示の信頼性確保に関する調査手法の検証 より引用 手法1

さらに、この手法を掲載した論文には、最後にこのような課題にも触れています。

〇この手法は、PET ボトルから再生した繊維を含む繊維製品」のみにしか適応できず、繊維から繊維を再生したPETは見分けられない。
(確かに繊維をバラバラにし、再び成形したフエルトのようなものは見分けられないことになります)

〇PET を重合前の原料に戻して再重合する方法、すなわちケミカルリサイクルは、見分けられない。
(これは、以前の記事にも書きましたが伊藤忠商事と帝人の「RENU®」がそれにあたります)

〇触媒として用いる金属が今後変わる可能性があり、そうなると判別できない

リサイクルの手法が新たに開発されると、それを判別することが難しくなるというジレンマ…。

今回考案された新手法

従来法はいずれも理論的にはリーズナブルでクレバーです。

一方、新手法は実は力技といっても良いでしょう。

なぜなら、超古典的なFT-IR(フーリエ変換赤外分光法)という手法を用いているからです。

この方法は、物質に赤外光を当てて、その光が透過あるいは反射した光量を測定します。

赤外光を当てると、物質はその光を吸収し、そのエネルギーで結合部分が振動したり回転したりしますが、光の波長によって振動する構造が決まっています。

そのため、色々な波長の光をその物質に当て、特定の波長の光の透過量や反射量が少なくなっていれば、特定の構造を持っていることが分かります。

とはいえ、この分析法は非常に大雑把で、例えば何が入っているか全くわからない物質を特定することはできません。

ただ、複数の物質において、赤外吸収パターンを見比べることで、それらが同じものであるか、そうでないかを見分けるには極めて適する分析方法です。

そのため、最近の研究ではあまり用いられなくなっている古典的な分析手法だといえます。

今回の課題においては、一見良さそうに思えますが、従来法で述べたような程度の構造の違い、つまり不純物の量が多いか少ないかなどを見分けるほど精度が高いとはいえません。 

今回の新手法の肝は、膨大なデータによるディープラーニングでした。

その小さな違いを膨大なデータから解析し、信頼性のある差を導き出すことができたようです。

この赤外分光法は極めて測定が簡単です。

繊維を細かく粉砕し、これをある試薬と一緒によく混ぜて薄いディスク状に押し固めます。

それを赤外分光光度計に差し込んで赤外光を当てれば、データが数分で得られます。

一般財団法人 材料科学技術振興財団 HPより引用

しかし、どうやら今は測定器はモバイルになっており、さらに非破壊で分析できるようです。

東京農工大大学院 高柳研究室のHPより引用

温故知新

これを開発したのはニッセンケン品質評価センターの女性研究者の方だそうで、3年がかりで成功させたとのことです。

当初、「赤外分光法で識別するなんて、無理」と言われていたのを見事実用化したそうですが、確かに私ももし同僚がこのアイディアを相談されたら、ちょっと無理なんじゃないかと言うだろうと思います。

「故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」

過去に学んだことや、昔の事柄を今また調べなおしたり考えなおしたりして、新たに新しい道理や知識を探り当てることを温故知新と言いますが、まさにこのことを言い表しています。