100%植物由来PETの製品化を成功させた東レ ~後編~

プラスチック

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前回は持論を書き連ねてしまいましたが、今回は実際にこの開発品について説明していこうかと思います。

100%植物由来原料はすでにあるが…PETでなくてはならないわけ

実は、これまでは同じポリエステルでも、ポリ乳酸は100%植物原料からすでに得られ、流通されています。

ポリ乳酸は、乳酸がつながってできた高分子で、原料はトウモロコシやサトウキビなどです。

これらに含まれる糖、あるいはデンプン質から得られた糖を乳酸菌に与え、発酵によって乳酸を作らせ、これを重合(つなぎ合わせる)させます。

しかし、物性の点でポリエステルにはかなわず、利用分野はやや限定されています。

一方、ポリエステル(PET)繊維については、耐熱性も成形性も優れているため、現在流通している化学繊維の8割を占めています。

これが100%植物原料に置き換わり、しかもリサイクルされると、環境や経済への影響はかなりプラスに働くのではないかと思います。

キーポイントは、PETを構成する典型的な石油由来成分をバイオマスから作ること



PET(ポリエチレンテレフタラート)はエチレングリコールとテレフタル酸という2つの成分からできています。

そのうち、エチレングリコールはアルコールの仲間で、以前から植物由来の原料は工業化されているので、東レ自身もこれを30%用いたポリエステル繊維をすでに販売しています。

一方、問題はテレフタル酸です。

テレフタル酸は、石油中から得られる典型的な芳香核(ベンゼン核とも呼びます)を持つ物質の一つであるキシレンを原料とし、通常、コバルト、マンガン、臭素の触媒下で250℃で酸素酸化して製造されています。

これを植物由来でなんとかしなければなりません。

東レはアメリカのベンチャー企業バイレント(VIRENT)と組んで、植物原料からこのキシレンを作ったそうです。

論文を見ると…どうやらVIRENTのBioForming®という技術がそれにあたります。

サトウキビやトウモロコシを原料として製造するようですが、プロセスとしては2つの工程があります。

まず、炭水化物の水溶液から、触媒の作用によって炭化水素に変換(Aqueous Phase Reforming(APR)水相構造変換プロセス)。

次に改良型酸縮合触媒 (ZSM-5)によって、ベンゼン環のついたキシレン、ベンゼン、トルエン(芳香族化合物)などができるということで、結構反応としては石油精製プロセスに似ているということでした。

この発明は、別にポリエステルに限らず、石油から得られる各種基礎的な物質を植物由来の糖から作ってしまうということで、結構すごいことなのではないかと思います。

mpleting the Puzzle:100% Plant-Derived PETより引用

東レはこの技術を導入し、2011年には試作を完了させ、さらに2019年のこの記事では、あとは原料パートナーを探して量産化を試みるとありました。

価格は安くはないようですが…

2019年の記事でも、担当者はハッキリ石油由来品よりも価格は高いと言い切っています。

そのため、まずは自動車、スポーツ、官公庁や学校など環境意識が高い分野をターゲットとして普及を図るとのこと。

今回の100%ポリエステル繊維製品も、全日空機の特別塗装機「ANAグリーンジェット」のヘッドレストカバーに採用されています。

繊研新聞より引用

この記事では、前編でも記載したカーボンニュートラルや価格の面、マイクロプラスチックなどについても質問があり、それらの現状について担当者自ら決して楽観的な言及をしていません。

しかし、私個人としては、この言及はとても信頼できるものです。

だからといって、あきらめないでできることをする、というような精神を感じ、勇気づけられました。

前回の記事:100%植物由来PETの製品化を成功させた東レ ~前編~