SPAの強みを活かしきった水着専門店 ミューラーン

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こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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水着というと私は、体にぴったりとした形しか思い当たりませんが、今年は「袖付きの水着」が流行ったそうです。

袖付きといっても単なる長袖ではなく、パフスリーブになっています。

水辺でたたずんでいても、水に入ってゆるゆると遊んでいても様になり、さらに露出も少ないことで、そこまでアクティブではない方でも抵抗感が少ないデザインなのではないかと思います

水着とアスレジャーファッションのSPAである株式会社ミューラーンは、コロナによるダメージを最小限にするために、SPAならではの様々な試行錯誤をして乗り切ったそうです。

この全く新しい水着は、そんな中で蒔いておいた種だといえます。

22年春夏にヒットし、売上に貢献するだけでなく、アフターコロナに向かって、大きな花を咲かせる可能性があります。

今回は、可愛らしい水着を眺めつつも、硬派にSPAについて考えてみたいと思います。

水着を水の中で着るお洋服により近づけたPEAK&PINE

「袖付きの水着」はこんな感じのものです。いずれもかなりフンワリしたフェミニン度の高いデザインになっています。

パフスリーブ型
アームウェア型
オフショルダー型

ショートパンツなどと組み合わせると、リゾートウェアとしても可愛く、

さらにショートパンツ型の水着と組み合わせれば、洋服を着たままで水遊びするような感覚で露出に抵抗感のある方でも楽しめそうです。

この会社では、水着を一年中販売しているそうですが、今回のお話は新しい水着の話題だけでなく、この会社がSPAという業務体制をとっていることについて、もう少し深堀りしてみることにします。

SPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)とは

私も新しい言葉を覚えるのに必死ですが、SPA(Speciality Store Retailer of Private Label Apparel)を直訳すると「プライベートブランド衣料品の専門小売業者」という意味になります。

もともとは1986年、GAP(ギャップ)の会長が自社の業務形態をそのように表現したことが発端のようです。

つまり、製造業ではない小売業者が、自社で販売するための独自のブランド(プライベートブランド)を自分で企画・製造して、販売までするということです。

SPAといえばユニクロが有名ですが、この会社も水着とアスレジャー(アスレチックとレジャーを掛け合わせたファッション用語)ファッションに特化したSPAなのです。

ここで、SPAの特徴を挙げておきます。

SPAのメリットとは、

  • 中間マージンがなくなるため、利益率を確保できる
  • 自社責任のもとで製造する商品、時期、量、価格、場所を自由に設定できる
  • 自社ですべて完結できるため、企画から販売までの期間(リードタイム)が短い
  • 売れ行きにより、生産調整ができる

SPAのデメリットとは、

  • 自社で製造販売するため、在庫リスクがある
  • 企画から販売までの一連の流れ(サプライチェーン)に関わるコストがかかる

どんな物事にもメリットとデメリットがありますが、ミューラーンはSPAのメリットを活かしてこのコロナ渦の厳しい状況を乗り切りました。

SPAならではのコロナ渦経済生存戦略

コロナ初発で水着からマスクへ生産を切り替えた

2020年3月、生地を発注した直後にコロナ被害が広がった際に、この夏の商戦は確実に吹っ飛ぶと判断、水着の生地から当時誰もが欲しがっていたマスクを製造して、手売りしたそうです。

このマスクは100万枚売れ、10億円の売上が立ったとのことです。

水着はほとんど売れなかったそうですが、この利益でなんとか社員の給与を払えたのだそうです…。

これは、SPAでなければできない経営判断です。

情勢をよく読み、迅速に方針転換したことが吉と出たといえます。

生産調整により価格を下げずにインドア商戦、断続的なホカンス商戦に乗った

定価で販売した率をプロパー消化率というそうです。

proper(プロパー)というのが妥当なという意味なので、本来設定した価格で全て売り切れば、プロパー消化率は100%といえます。

しかし大概、ファッション業界はシーズン後期に価格を下げるので、その分売上目標から遠ざかり、利益は下がります。

ミューラーンは22年に向けて「プロパー消化率100%」を掲げ、「作ったら売り切る」ことに徹したそうです。

とはいえ…どうすれば定価で買ってもらえるのでしょうか?

それは、作りすぎないことだそうです。

もう少し欲しい(足りない)と思うギリギリのラインを狙うことで、すべて売り切ることができます。

特に売れている製品の場合はもっと売りたいし、売れるだろうと思って増産したくなりますが、そこをぐっと我慢して、ちょうど良いところですべて売り切りました。

これによって、見込みよりも売上は下がるかもしれませんが、在庫発生による原料や人件費、その他管理費のロスがなくなり、利益率が上がります。

具体的に消費者視点で考えてみましょう。

例えば、コロナ渦では、自宅でのアクティビティーが増え、ヨガウェアなどの売上が増加しました。

また、断続的な規制緩和により観光地に出かける代わりに、ホテルステイをメインに楽しむホカンス(ホテル+バカンスを組み合わせた造語)で、ホテル常設のプールで楽しむことが増えたそうです。

いざ水着を調達しようとして訪れた通販サイトでほとんどの商品が在庫僅かだったら、思わず「今買っておかないと!」という気持ちになり、購買促進につながることは容易に想像がつきます。

実際、19年の売上は19億円でプロパー消化率が76%であったのに対して、22年は19年に比べて売り上げは7億円マイナスの12億円になりますが、プロパー消化率は90%の見通しで、利益率は上昇したとのことです。

これも、微妙な生産調整、価格設定ができるSPAならではの戦略だといえます。

厳しい中で新たな種を蒔いておくことで、次の一手を打っておくことができた

今回ご紹介した水着がまさに種(Seeds)であり、次の一手なのではないかと思います。

というのも…..コロナ渦にプール付きのホテルで水着を着て遊びにいけた人の数など、そうはいっても限られるのではないでしょうか。

しかし、その人達がこの新しい水着を着てSNSで拡散してくれたおかげで、ヒットにつながりました。

そして来年こそこの規制ムードはさらに緩和されるという見通しによって、海外旅行や卒業旅行、新婚旅行などでの需要回復を期待しているそうです。

一年中水着を販売しているこの会社では、その時のための一手を早くから打つことができていたといえます。

追随する大手メーカーがこのトレンドをどう見るかがキーポイントとなりますが、この会社が今後も先手必勝で来期も勢いに乗っていくことを期待し、水着とはとんと縁のない私も思わず応援に力が入ります。