陸上競技とスーパースニーカー

プラスチック

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2021年の箱根駅伝でナイキの厚底シューズが有名になりました。

実は、2017年から厚底シューズがマラソン界に導入され、それを履いて出場した選手が軒並み好タイムをたたき出しています。

さらに、2019年のウイーンのレースで、後にアルファフライと呼ばれる厚底シューズのプロトタイプを履いて出場したケニアのエリウド・キプチョゲが人類未踏のフルマラソン2時間切り「Breaking2」を果たしたころから、一気にスーパーシューズの認知度がアマチュア層にも高まりました。

しかしその後、World Athleticsの基準が改定され、ほとんどの陸上競技ではシューズの底の厚みは20㎜(ロードレースの場合のみ40㎜)になりました。

しかし、走るという運動に寄与するための靴を作り続けるメーカーの努力は途絶えません。

今回の記事は陸上競技とスニーカーについて解説します。

陸上競技用スニーカーの進化

1960年のローマオリンピック、1964年の東京オリンピックで2大会連続優勝を果たしたエチオピアのアベベ選手は裸足で走っていました。

しかし、その後競技用スニーカーの進化は目覚ましく、特に足に直接触れるアッパーソール、地面に直接触れるアウトソール、そしてその間のミッドソールと呼ばれる靴底の構造に各メーカーは工夫を凝らすようになっています。

これらの技術革新によって、2016年のリオデジャネイロオリンピック以降、世界新記録樹立に貢献する靴は「スーパーシューズ」と呼ばれ、各社様々な技術開発を行っています。

一方、このような潮流に対して、シューズの有無による実績格差を生むということや、純粋に身体能力で競うべきであるという観点から、これらのシューズはいわゆるメカニカルドーピングであるという意見もあり、未だ物議を醸しています。

そんな中、2021年にはナイキなどが提案している厚底シューズなどに対して規制をかけました。

NIKE より引用 キプチョゲ選手が使用したエア ズーム アルファフライ ネクスト% 2
アシックスより引用 METASPEED Sky
アディダスHPより引用 ADIZERO ADIOS PRO 3


しかし、おそらく改良技術は厚みだけではないはずです。

着地の衝撃を前進力に変える格子状のミッドソール

陸上競技は、地面をけり出す動作を繰り返すため、特に選手にとっては練習も含めて足や体への負担を減らしたいという要望と、純粋にその動作による前進力をより増幅し、タイムを縮めたいという要望があるかと思いますが、いずれにせよ、それらの要望を叶える靴は陸上競技における成績の向上につながります。

今回、アディダスが発売する「4DFWD (4Dフォワード)」の最新コレクション「4DFWD2 (4Dフォワード2)」は、ソールのクッション構造を、メッシュ構造にすることでそれらを実現しています。

ボウタイ型(蝶ネクタイのような形の)格子「FWD CELL(フォワードセル)」が、垂直方向の衝撃に対して前方に押し出すような反発力を生み出すことで、このミッドソールは、着地の衝撃を前進する力に変換することができるそうです。

アディダスHPより引用

この精密なメッシュ構造は、アメリカの3Dプリンタベンチャーであるカーボン社のCarbon Digital Light Synthesis™(Carbon DLS™)プロセスという高度な3Dプリンタを用いています。

詳しくはわからないのですが、液体樹脂を積層しながら固化する工程において、どうしても剥離が起きてしまうのを防ぐために、固化した部分と液体樹脂との間にデッドスペースを作り、常に新しい液体樹脂と接触できるように工夫することで、優れた強度と解像度、表面仕上げを兼ね備えた部品を生産することができるようになったようです。

この3Dプリンタを使うことで

・プラスチック製品を金型(プラスチックを流し込むための型)を作らなくても試作、製造ができる
→製品開発のスピードアップ、コストダウンが図れます

・金型では不可能な複雑な構造の製品を製造できる
→今回のスニーカーではソール部分のラティス(格子)構造にあたります。

さらにカーボン社独自の技術として

・より高密度に樹脂を積層することができる
・表面のデザイン(ツヤ、エンボスなど)が自在にできる

ということが特徴です。


スーパーシューズはどこまで進化するか

陸上競技ではありませんが、2008年にイギリスのSPEEDO社が、表面の一部にLZR Panels(ポリウレタン素材)を接着した競泳用水着「レーザー・レーサー」を開発、これが水の抵抗力を極限に減らすことができるため、世界新記録が次々更新されました。

しかしこれも、2010年より水着の布地は「繊維を織る・編む・紡ぐという工程でのみ加工した素材」に限定され、「レーザー・レーサー」は禁止されました。

水着も靴も、競技に必須の道具です。

選手の体を最大限生かし、数秒単位でのレース効率を図るため、また過酷な練習や選手人生を守るために、体の使い方、練習方法、メンタルや体のケア、道具の科学は粛々と進化しています。

今後も、規制の網をかいくぐって新しい技術が出てくるのではないかと思います。