天然か合成か ~宝石の価値はどこにある ラボグロウンダイヤモンド~

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こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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ジュエリーの価値を次世代ジュエリーブランドを集めたグローバルサイト「ザ・フューチャーロックス(THE FUTURE ROCKS)」の日本公式サイトが始動したそうです。

自分らしいオシャレを追求し、環境への意識の高い世代に向けて「新世代の革新的なジュエリーブランドを取り扱っていて、主に電子機器や古いジュエリーなどを再生したリサイクルゴールド、リサイクルプラチナや、合成ダイヤモンドを用いています。

これらのブランドのサイトを覗いてみると、合成ダイヤモンドとして、そのほとんどが「ラボグロウンダイヤモンド」を取り扱っていました。

少し調べると、色々面白いことが分かったので、今回はこのダイヤモンドについてまとめてみました。

ダイヤモンドを手に入れる方法

ダイヤモンドとは

ダイヤモンドは炭素でできている宝石です。

中学校などの化学の授業で習った方は覚えているかと思いますが、結晶の構造が少し違えば炭(グラフファイト)になってしまいます。

ダイヤモンドの結晶は、地球の中心部(マントル)付近にある高温・高圧状態の炭素が地表近くまで一気に移動して急激に冷え固まることで得られ、古い地層構造が保存されている一部の地層に存在していると言われています。

天然物質の中では最も硬度が高く、無色透明で美しい光沢があるため、工業用、また宝飾品として重宝されてきました。

土の中から掘り出す(採掘)

最初はインドの河川で見つかり、その後15世紀には研磨技術が発達したことから宝石として認知されるようになりました。

その後、18-19世紀ごろから本格的な採掘がはじまりました。

産出国はロシア (22.8 %)、ボツワナ (19.9 %)、コンゴ民主共和国 (18.0 %)、オーストラリア (13.2 %)、南アフリカ共和国 (9.3 %)、カナダ (8.1 %) だけで、世界シェアの90 %を占めますが、うちアフリカ南部で約半分程度のシェアがあります。

南アフリカ共和国を拠点として、そのほとんどの鉱山を買収し、採掘から流通、加工、販売に係る全世界のダイヤモンド市場を一手にコントロールしている強大な企業といえば、デビアス社が有名ですが、ダイヤモンドを安定供給するには、ものすごい規模の採掘事業を実現する必要があり、

ダイヤモンドの価値はその美しさだけではなく、資源としての希少価値(とはいえ、宝石の中では希少性は低いのですが…)、莫大な生産コストも上乗せされているといえます。

南アフリカ共和国ケープ州キンバリーにあるダイヤモンド鉱山(ビッグホール)

人工的に作る

原料は炭なのです。

誰しも作ってみようとするでしょう。

実際に19世紀末頃には、人工的に作る試みがなされてます。

20世紀には高温高圧条件での合成に成功しています。しかし結晶が小さく、無色透明ではなかったため、工業用途として生産されていました。

その後、生産技術の向上によって、宝飾用ダイヤモンドも生産できるようになり、これを「ラボグロウンダイヤモンド」と呼んでいるのでしょう。

基本的には先述したような高温高圧条件下での合成方法(HPHT法)と、もう一つ炭素を気化させた状態で少しずつ結晶を合成する方法(CVD法)で製造されています。

現在、これらのラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドの50-60%の価格で購入できるそうです。

HPHT<High Pressure High Temperature>(高温高圧法)

ダイヤモンドの結晶が形成される地球深部のような超高圧高温を再現する装置を使います。

条件としては55,000気圧ほどの圧力と1,400℃以上の高温をかけて生成します(我々の環境は1気圧、25℃なのですごい条件です)。

これは宝飾品といえど、かなりのコストがかかります。

しかし、イスラエルの科学者によって設立されたLUSIXは、100%太陽光発電生産にも取り組んでおり、これらのエネルギー的な課題もクリアできつつあります。

中央部にダイヤモンドの核があります

SHINCA HPより

CVD<Chemical Vapor Deposition>(化学気相蒸着法)

旧ソ連とイギリスの合同研究チームによって開発された方法で、薄くスライスしたダイヤモンドを核とし、ここに炭素原料としてメタンガスをマイクロ波を当てながら核の表面に薄く付着させていく「蒸着」という手法で結晶を成長させていきます。

Researchgate HPから引用
SHINCA HPより

天然と合成の違い

天然と合成の違いはあるでしょうか?
成分はほとんど変わりません。むしろ合成の方が不純物が少ない可能性もあります。

ただ、結晶構造は少し違います。

  • 天然ダイヤモンドは、八面体面で外側に向けて成長します
  • HPHT合成ダイヤモンドは、八面体面と立方体面で外側に向けて成長します
  • CVD合成ダイヤモンドは、主に上向きで一方向に成長します(立方体面)
GIA HPより引用

…しかし、研磨してしまえば違いはわからなくなってしまいますね。

一方、先述したダイヤモンド販売世界最大手のデビアス社も、2018年に合成ダイヤモンドを取り扱う新ブランドを設立しました。

さらに現在、LUSIXのような合成ダイヤモンド開発企業への投資が活発化され、市場拡大が期待されています。

日本でも、宝飾用ラボグロウンダイヤモンドの製造・研究が盛んになり、「シンカ(SHINCA)」や「ENEY(エネイ)」「プライマル(PRMAL)」などでこのラボグロウンジュエリーを購入できます。

SHINCA ONLINE HP より

価値があるかないか

一部のブランドや店舗では、上記流れを認知しつつ、より一層の天然ダイヤモンドへのこだわりや価値観を新たに謳っているところもあります。

また、ラボグロウンダイヤモンドがいくら台頭したとしても、価値があるはずがないとするジュエリージャーナリストなどの意見も散見しました。

何億年もかけて偶然に形成された原石を人力で掘り起こして磨き上げたダイヤモンドと、原料から人工で作り上げた、見た目も化学組成もほぼ同じダイヤモンドの価値をどう考えるか…。

例えば、ダイヤモンドの美しさの背景にある採掘労働者の苦労に価値を見出す人であれば、天然ダイヤモンドを選択するでしょうし、新しい技術、低コストでより大きなカラットを購入できることに価値を見出す人であれば、合成ダイヤモンドを選ぶでしょう。

冒頭の「ザ・フューチャーロックス(THE FUTURE ROCKS)」は香港の企業です。

この企業のターゲットが既存の固定概念にとらわれない新しい世代であるということを考慮すると、

極論ではありますが、この次世代ジュエリーは、同じ結果が得られるのであれば、強いリーダー率いるチームで一丸となって進めるプロジェクトよりも、様々な働き方で参加した緩いつながりを持ったチームでワークシェアながら進めるプロジェクトの方に魅力を感じる合理的な考え方を持つ世代にその真価を問うているといえるかもしれません。