こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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最近は吸水速乾の素材でできたアイテムが沢山あります。
汗を吸ってくれて、すぐに乾いてくれるという素材で、スポーツ用のTシャツなどは今やほとんどがこの素材が使われています。
たまにコットン製のシャツなどと一緒に洗濯すると、明らかにその後の乾き具合の違いを痛感することになります。
今回はこの吸水速乾について調べてみました。
吸水と速乾をどう両立するか
吸水について
繊維自体の吸水性(化学的特性)
冒頭で述べたコットンなどの天然繊維は基本的に吸水性が非常に良い素材です。

その一方、天然繊維は乾くのに時間がかかってしまいます。
ということは汗を吸っても、しばらくベタベタしていて、水分で生地は重くなり、着心地はとても悪くなります。
つまり、汗をすばやく吸い取って、肌表面から離れてくれて、かつ外に逃がすような水分移動を促す仕組みが必要です。
先ほどのグラフのような、繊維の吸水性は繊維自体の化学的な特性に頼るところが大きく、水と親和性の高い物質が水の分子を吸着することで吸水性を実現します。
しかし、一旦吸着した水は親和性が高いが故に繊維からなかなか離れてくれません。
そうなると、他の機構で吸水性を実現しなくてはなりません。
繊維の集まりとしての吸水性(物理的特性)
吸水速乾素材のほとんどはポリエステル製です。先のグラフでポリエステルはほとんど水を吸収しません。
つまり繊維自体はサラサラです。しかしそれ自体は汗を吸い取らないので、ポリエステルを引き伸ばした生地では、当たり前ですが汗が中にこもってしまい、大変なことになります。
汗の通り道を作って、汗をそこに誘導し、外に逃がす物理的な仕組みを作る必要があります。

その物理的な仕組みとして、ほとんどの繊維が毛細管現象を利用しています。いくつか実際の製品でその工夫について調べてみました。それぞれ特徴が異なり、差別化ができています。
東レ:フィールドセンサー®
毛細管現象を利用し、編地を肌表面、生地内部、外気表面とで構造を変えることで着心地の良さを追求しています。

東洋紡STC:メガテックドライ®
毛細管による吸水層と、凸凹撥水層の組み合わせで、大量に汗をかいてもサラサラに保つことができるようにしています。

三菱ケミカル:ベントクール™
アセテート繊維からなり、乾燥時は縮れていて隙間が小さいが、吸水すると膨張して通気性が向上する仕組み。単独では寸法安定性が低いことから、他の繊維と複合して用いられているようです。
水分の状態によって繊維が自動的に収縮を繰り返すとても面白い素材です。

帝人フロンティア:ナノフロント®
繊維を直径700ナノまで細くすることで、毛細管現象を最大限高めています。
ナノレベルの繊維を現在大量生産することは難しいため(過去記事参照)、まず表面とコアの2層からなる通常の太さの繊維を紡糸した後、表面層だけを溶解することでナノレベルの細い繊維を製造しています。
繊維が細くなることで、やはり毛細管効果が高まっていることが良くわかります


クラレトレーディング:ソフィスタ
毛細管現象と繊維自体の吸水性、接触冷感の合わせ技
クラレの製品である親水性の素材であるエバール(エチレンビニルアルコール(EVOH))とポリエステルの複合繊維です。
繊維表面のEVOHが汗を吸収し、内側のポリエステルが汗を拡散させる働きがあります。
また、EVOHは熱伝導性が高いため肌から熱を奪って、触ると冷たく感じる特性もあります。


旭化成:ベンベルグ
完璧な特性、でも繊細な再生繊維
キュプラ繊維である「ベンベルグ」は旭化成の登録商標ですが、これはコットンリンターと呼ばれる、綿花の種子の周りの産毛状の繊維を原料として、銅アンモニア溶液に溶かして紡糸する再生繊維と呼ばれるものです。
これは、天然由来の繊維でありながら非常に細いこと、また多孔質構造を有していて、表面にスキン層というものを形成していないそうで、天然繊維の吸湿性に加え、速乾性もあるそうです。
しかし、毛玉ができやすかったり、コシがない、水に濡れるとシワやシミになりやすいなど、メインの素材として使うのは少し難しいため、吸水速乾性ポリエステル素材と複合的に用いられているようです。

ユニチカトレーディング:ハイグラ®-LU
吸水ポリマーをナイロンで包んだ「ハイグラ®」と断面に凸凹を多くすることで吸水性を高めたポリエステル「ルミエース®」を組み合わせた素材で吸水速乾特性を担保しています。

旭化成と帝人フロンティア:テクノファイン
平べったいW型の特殊な断面を持つポリエステル糸で、特殊構造繊維というカテゴリに入ります。表面積が大きくすることで毛細管現象を高めています。
吸水性は、通常のポリエステルの2倍で、乾燥速度は5分の3程度(コットンに比べると2分の1以下)だそうです。


KBセーレン:ソアリオンYC
先述したテクノファインと同様、これはY型の断面を持っていることで、同様の効果を奏しています。


lycra:COOLMAX®
もともと1986年にデュポン社によって開発された素材ですが、これも前述したテクノファインやソアリオンYCと同様、ポリエステル断面に特徴があり、4つの溝を持っているそうです。
物理化学性を駆使した繊維の世界
以前も同じようなことを書いたような気がするのですが、テキスタイルの世界は、入れ子のような技術の掛け合わせです。
単繊維を構成する成分の特性、それが寄り集まることによる特性、さらにそれが織物になることによる特性がそれぞれ影響しあって一つの性能を発現していていることに面白味を感じます。