こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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革製品として、「近大マグロ」「サケ」「ブラックバス」など魚の革というジャンルがあるというのは知りませんでした。
また、私の隣の研究室ではポリフェノールの研究を行っていましたが、動物の皮を人間が使える革にするために必要なタンニンもポリフェノールの仲間です。
当時も、教科書的には「タンニンは皮なめしに使用する」ということは知っていたのですが、具体的にどんな原理なのかは知りませんでした。
そもそも革ってなんでしょうか?
兵庫県の老舗メーカー「新喜皮革」による本格的な魚類皮革製品
冒頭のお話はこちらの記事に掲載されていました。
ブラックバスというと、琵琶湖で大繁殖した外来種で、ルアーフィッシングが人気です。
この新喜皮革の革を用いた製品を製造販売しているジ・ウォームスクラフツマニュファクチャーのHPによると、これは「PISCINE(ピサイン)Label」というアイテム展開の一部で、特に黄色いブラックバス由来の革はまさに鱗がありありと浮き出てきそうな革製品。
爬虫類のそれでもなく、これは魚由来だとわかります。
一方、黒の近大マグロの方は細かいシボがあり、一見しただけでは魚由来だとはわからないかもしれません。


今回はさらに「サケ」を用いた製品開発を始めるとのことで、アトランティックサーモンを食品加工する企業に、年間400トン排出される皮の有効利用として、まずは50キロ、400枚の皮でレザー製造を開始したとのことです。
調べると水産物や冷凍食品で有名なマルハニチロのHPに、面白いサイト「サーモンミュージアム」があり、そこにはアイヌ民族は昔からサケの皮の利用をしていたとの記載がありました。
こんなオシャレな「サケジャン」もあったんですね。

ただ、魚の皮は馬や牛などに比べて薄いため、製造はより高度な技術が必要とのことです。
ただ、レザーとしては薄くて丈夫で、この独特の鱗模様も意匠的に面白いことから、そのうちデザイナーなどがテキスタイルとして着目する可能性もあるのではないでしょうか?
しかし皮革製造は、環境負担も大きい
新喜皮革のHPに行くと、薄暗い工場の中に木製の大きな樽や、各種タンニンが解けた水槽などが所狭しと並んでいて、職人さん達が淡々と複雑な工程を進める様子が動画で紹介されています。

ハードな現場においても誇りをもって働く、サラリーマンにはない雰囲気の職人さんがとてもカッコイイのですが、タイムスリップしたかのような錯覚を覚えます。
動画にもあるように、製造工程は輸入された塩漬けの革の塩を抜いて、腐らないように薬品加工し、材料として最も優れた部分を切り出し、しなやかにして、染色をして、表面加工をして….といった工程で、ふんだんに水が使われています。
生物の皮膚は絶えず水と共存することで、しなやかさを保っています。これを陸で長期間利用するためには、皮の成分が乾燥の際に収縮することを避けなくてはなりません。
その時に、このタンニンが用いられています。
タンニンは樹皮や植物などから採取されますが、もともと茶色系統に着色しているため、染色もかねて処理されていますが、もともとはコラーゲンという繊維物質の隙間に入り込み、繊維同志が乾燥に伴ってくっつき合って固く収縮するのを防ぎます。これを「鞣し(なめし)」といいます。
皮の内部まで定着させるのに、何時間もタンニン水溶液に漬け込む必要があります。
以前は、タンニンよりも早く鞣すことのできるクロムという金属を使っていましたが、これは水質汚染を引き起こすため厳重な注意が必要で、国内では環境基準が守られていますが、発展途上国ではまだまだ守られていない状況だそうです。
伝統と環境とのジレンマ
高付加価値製品だからこそできるクラフトであり、大量生産は不可能です。
しかし、あえて伝統的製造方法を守ることで、新喜皮革は国内だけでなく、世界で唯一無二の存在となっています。
限られた原料から、限られた人のために破格の時間と手間をかけて作られる製品…。
製造の効率化が進む中で、効率化のできない希少資源を用いた上記のような製品も、もっと増えていくのではないかと思います。
この作業場から生まれたとは思えないきらびやかなシーンで使用される高品質な皮革製品たちを見ると、何とも言えない気持ちになり、大事に使わなければ…と思います。

そんな中、廃棄物利用という形で、クラフトがまず作られ、その価値を認められることは、その後の技術向上に必ず意味があるのではないかと思いました。