こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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酵素を用いてPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂を分解する動きが、繊維業界にも浸透しつつあります。2011 年に設立されたフランスのスタートアップ企業、Carbios(カルビオン)はOn・Patagonia・PUMA・Salomonの4社と提携し、ポリエステルリサイクルの研究開発を開始したそうです。
バイオリサイクルは、先の記事で紹介したような物理化学的な手法とは異なり、生物学的な手法を用います。
生物の営みを利用することのメリットは主に2点であり
・高い温度や危険な薬品を使用しなくても良い
・色々な廃棄物が混じったゴミの中からポリエステルだけを選択的にリサイクルできる
ただ、デメリットも当然あり、
・反応に時間がかかる
・大量に処理するとコストがかかる
今回は、この生物学的手法について、少しだけ解説します。
きっかけは日本人が見出した菌から始まった
今回の技術は酵素を用いています。
酵素というのは生物の体の中で様々な反応を助ける触媒のような役割をするタンパク質です。
今回の技術は分解酵素を活用していますが、身近な例としては、唾液に含まれるアミラーゼがあります。これは口の中でデンプンを分解します。また、胃の中ではリパーゼと呼ばれる酵素があり、胃酸の中でも脂質を分解することができます。
今回の酵素は,高分子(ポリマー)であるPETをモノヒドロキシエチルテレフタレート(MHET)というモノマーに分解する酵素と、それをさらに分解してもともとの原料であるテレフタル酸とエチレングリコールに加水分解する酵素を用いた技術です。
これらの酵素は、PETを栄養にすることのできる画期的な菌の発見から見出されました。
京都工芸繊維大学の小田教授らによって大阪府堺市のペットボトルリサイクル工場から発見された新種の細菌で、Ideonella sakaiensis 201-F6株といいます。
そのような工場にはおそらくPETを分解できる微生物もいるかもしれないと考えた科学者の勘が当たったのです。
その後、慶應義塾大学吉田教授らによる発表でこの菌株は一躍有名になり、今も色々な研究が世界各国で行われています。
同じような発見は、今や我々のほとんどが知っているPCRという技術にも使われており、温泉地で見つかった耐熱菌から得られた酵素があったからこそ、今のように使える技術になりました。

Carbios(カルビオン)が見出した新しい技術
Carbios はこの菌を人為的な方法で変異(性質を変えること)させ、2020年により高性能な酵素を取り出すことに成功しました。
具体的には、72℃条件下において、10 時間以内にPET廃棄物1tのうち 90% が分解されるというもので、その知見をまとめた論文は、「nature(ネイチャー)」という有名な学術雑誌に掲載されました。


この手法を用いると、石油から作られたバージン プラスチックのコストのわずか 4%でリサイクル可能だそうで、すでにバイオテクノロジーのNovozymes社との契約でこの酵素を大規模に生産することを可能としているようです。
そっそれはすごい。
また、冒頭で述べたように、他の素材と混ざっていたとしてもポリエステルだけを効果的に分解することができるので、分別する手間が省けるとのことです。
そっそれもすごい。
アパレルと基礎研究
Carbiosは他にも世界最大の化粧品メーカーであるフランスのロレアルグループとも提携し、100%リサイクルPET製の化粧品ボトルを開発したそうです。
この会社自体は研究開発に特化しており、新しい酵素やそれを活用した技術を売りにしたライセンスビジネスです。
アパレル業界が、このような基礎研究のスタートアップ企業を応援しているのは本当に心強いと思いました。