WBGT値(暑さ指数)と衣服

その他

こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
是非、私と一緒に、
あなたが本当に着ていて自信の持てるコーディネート」を探してみませんか?

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私の職場でも半屋外施設などでは冷房設備がないところもあり、作業する方の環境を見直す動きがたかまっています。

その施設は、研究目的で、ある区間の温度と湿度をロガーと呼ばれる装置で経時的に測定して、記録しているのですが、先日の会議で、社員の方から去年実績と比べると現時点で5℃平均温度が高いとの報告を受けました。

その施設では比較的高齢の方がパートタイマーとして働いてくださっていることもあり、急ぎ対策をすることになりました。

その一環としてWBGT指数測定器の導入も検討中です。

今回はWBGTの考え方と、過酷な作業環境を少しでも快適にする素材について考えてみました

昨今の熱中症被害について

数年前から、熱中症による死亡・緊急搬送などがごく一般的なニュースとして話題に上がるようになりました。

これを受けて環境省は熱中症予防情報サイトを設置、ここに昨今の気温上昇に対する各種情報が集められています

平成2年からは環境省と気象庁が連携して、毎日暑さ指数の値が33以上と予測され地域のマップとともに「熱中症警戒アラート」を公表しています。

熱中症軽快アラート(2022年7月30日)

とにかく熱中症を防ぐには以下のような対策をする必要があるとのことです。

・不要不急の外出は避け、昼夜を問わずエアコン等を使用する。
・高齢者、子ども、障害者等に対して周囲の方々から声かけをする。
・身の回りの暑さ指数(WBGT)を確認し、行動の目安にする。
・エアコン等が設置されていない屋内外での運動は、原則中止または延期する。
・のどが渇く前にこまめに水分補給するなど、普段以上の熱中症予防を実践する。

暑さ指数が増えると、どの程度リスクが高まるかについてもわかりやすいグラフがあります。これを見ても暑さ指数が28を超えると、熱中症患者の発生率は各段にアップしていることがわかります。

というわけで暑さ指数33というのがいかに危険な数値であるかが分かると思います。

暑さ指数(WBGT)について

ところで、この暑さ指数って何でしょう?気温と同じように単位は(℃:摂氏)になっています。

暑さ指数(WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)は1954年、アメリカで熱中症を予防することを目的として提唱された指数だそうです。

簡単に説明すると、
人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい3つの因子を取り入れています。

1 湿度
2 日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境
3 気温

これらの測定には、1~3を測定するための温度計を3つ用意してそれぞれの温度を測ります。

1 湿球温度 (Tw):球部を湿ったガーゼで包んだ温度計を用いることで、湿度を加味した温度を測定します。これで汗が乾きやすい環境下かどうかがわかります。
2 黒球温度 (Tg):クローブ温度計と呼ばれる直径15 cmの薄い銅板製で表面に黒のつや消し塗装が施された球の中心に温度計が入ったもので測定します。これで周囲の気温によって温められた物質からの熱放射を加味した温度が測定できます。
3 乾球温度 (Td):いわゆる普通の温度計であり、気温を測定しています。

また、計算方法としては、

日射がある場合は
WBGT=0.7 Tw+0.2 Tg+0.1 Td

日射がない場合(屋内および日照していない場合)
WBGT=0.7 Tw+0.3 Tg

このことから、暑さが人間に与える影響としては、実際の気温(Td)よりもむしろ湿度を加味した温度(Tw)の影響が7割を占め、次に周囲の物質(屋外であれば地面なども含まれます)からの放射熱(Tg)の影響はその2-3割を占めていることがわかります。

環境省で示されていた測定方法
このように一体型のものが市販されています

過酷な環境下で働く人に向けた防護服「リブモア」

このブログではおなじみ東レの製品です。ディスポーザル(使い切り)の防護服の「リブモア」は粉塵が多い場所での作業、清浄な環境(クリーンルーム)での作業、医療リスクのある作業などに携わる人が着用する「防護服」のブランドです。

これらの防護服はもちろん、安全性が最優先されるため、これまでは作業環境に関しては二の次でした。

しかし、この「リブモア」は、一般的な防護服にはない通気性が確保できるとして、2019年に比べて3倍の売上を誇っているそうです。

通常、作業中の服装によってさらにWBGTに補正値を加えなければなりません。以前の記事で示したようにマスクと同じ構造をもつ、SMSポリプロピレン製のつなぎでも+0.5℃加えておく必要があります。

通常の使い切り防護服では補正値は2-3だそうですが、この「リブモア」は補正値0でOKとのこと。かなり作業環境が向上していることが示されます。

また、社内資料を取り寄せて確認したところ、このSMSポリプロピレン製の防護服の通気度が、約7.0cc/㎠・secであるのに対して、「リブモア」の通気性は10倍以上(通気度 96cc/㎠・sec )であり、かなり防護服内環境が向上しているといえます。

リブモアの通気性を支える機能性繊維「トレミクロン®」

実はリブモアも、2枚のスパンボンド不織布の間にメルトブローン不織布のあるSMSポリプロピレン製不織布からできています。

しかし、このメルトブローン不織布に秘密があり、ここに「トレミクロン®」という繊維が用いられています。

一般的に粉塵やウイルスなどから身を守るには目の細かい布が必要ですが、そうなると通気性の問題が出てきます。

トレミクロンは、目を細かくするという手法ではない別の手法、すなわち電気的な力を利用して粉塵やウイルスを捕集することで、通気性を確保しています。

リブモアHPより引用

具体的にはポリプロピレンなどもともと帯電しやすいプラスチック繊維にコロナ放電処理などを加えると、エレクトレット(永久磁石のように電気をかけなくても分極して電界を発生させる物質)化させることができます。

さらにこれらを不織布にする際、繊維をランダムに積層してしまうと、プラスマイナスが引き合ってしまい電気的に中和(キャンセライズ)されてしまうのですが、これを繊維のプラスマイナスの方向をそろえて積層することで、不織布全体としてエレクトレット化することができます。

これによって、繊維の目が粗くても、繊維および不織布全体の電界トラップがあることで、ウイルスや粉塵の侵入を効果的に防止することができるのです。

トレミクロンHPより引用

今後の展開

おそらく配向性を高めること、繊維をナノレベルまで細くすることなどで、さらに通気性などを向上させつつ防塵、防ウイルス性を高めることが可能であると思われます。

少しでも作業負担が少なくなり、快適に仕事ができるようになると、経済効果も高まるのではないかと期待しつつ、この夏も、暑いですが、みんなで頑張って仕事したいと思います。