水を使わない染色 ~「超臨界流体染色」の現状~

繊維

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私が大学生だった頃、色々な物質をある温度と圧力の状態にキープしたときに気体と液体の中間の状態「超臨界流体」としてふるまうことに着目した新しい「超臨界」技術が話題となりました。

特に、水と二酸化炭素がよく用いられ、水の場合は374℃、218気圧、二酸化炭素の場合は31℃、73気圧の条件下に置くと、液体のようにものを溶かすことができ、なおかつ気体のように高い拡散力や反応力を発揮することができるようになります。

そこで、これらの「超臨界流体」を用いてこれまでは分解が難しかった有害物質を分解したり、希少な有効成分を高い効率で抽出したりという取り組みが多くなされていました。

しかし、当時からその有効性は認めつつ、高温高圧容器が必要であるため、実用化がなかなか進まなかったという印象を持っています。

今回はこの「超臨界二酸化炭素」を用いた無水染色について、現状、どこまで実用化が進んでいるのか少し調べました。

超臨界流体染色は外国に先を越されていた

超臨界二酸化炭素を繊維の染色に用いるというアイディアは1991 年ドイツで発表されました。

これは従来、染色には水が多量に必要であることが常識でした(繊維1kgの染色に約200Lの水を使用)が、

・一切水を使う必要がなく、廃液がでないこと。

・染料以外の薬剤が不要であること。

・乾燥工程も不要であること。

・非常に短時間で染色できること。

などから、エネルギー的にも従来の染色工程よりも40%程度の削減効果が見込まれるなど多くの利点があり、話題になりました。

繊維トレンド 2021 年 1・2 月号より引用

しかし、やはりなんといってもこれを実用化するには大型の圧力容器が必要であり、その設備投資の是非、圧力容器の法的規制などの障壁があり、日本では実用化が進みませんでした。

2年後、オランダのDyeCoo社が、超臨界流体染色機(350L)を販売し、2009年にはタイに工場が設立され、2012年にNike がDyeCooと戦略的パートナーシップを提携して、いち早く実用化が始まりました。


現在、台湾の紡績会社とも提携し、Nike、adidas、Puma、Mizuno のスポーツアパレルメーカー、家具の IKEA、YKKはファスナーの染色「ECO-DYE®」を行っています。

続く、中国、韓国も200~300L規模の装置を独自開発し、実用化が進められているようです。

しかし、上述したように、これらの染色はポリエステルニットに限られ、染色後の釜の洗浄が困難であることなどの欠点がありました。

国内での実用化研究の取り組み

現在、これらの課題解決に向けては福井大学が最も進んだ研究を行っているようです。

平成30年度の研究業績を見る限り、以下のような進展があります。

・日阪製作所と共同研究を進め、国産の超臨界染色処理装置(100L)を開発しました。

・分散型反応染料の開発によってポリプロピレン繊維も染色可能にしました。

課題も多くあるが、今後少しずつ普及していく可能性は高い

・まだ天然繊維とナイロンは十分に染めることができていない

・釜の洗浄問題がまだ解決していない

・高圧容器の取り扱い規制のために企業の導入が進みにくい

・水が比較的豊富に得られる日本においては、危機感が乏しい

などの課題はありそうですが、現在各種テキスタイルメーカーがこの無水染色のファブリックの販促を推し進めていることから、今後じわじわと浸透していくことが予想されます。