防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 後編

繊維

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前回に引き続き、「ゴアテックス」に続く防水透湿素材について調べました。ここでようやく本題に入ることができます。

東レのテキスタイルブランド、「ダーミザクス」と「エントラント」の解説と、この度開発された、「ダーミザクス」を構成するエレクトロスピニング膜について、調べていきます。

「ゴアテックス」の原理がわかると、これらのテキスタイルがどのような原理を利用して防水透湿機能を実現しようとしているのかが、理解しやすいのではないかと思います。

防水透湿機能を持たせるには ~東レの挑戦~

「ゴアテックス」は撥水性の原料に水が通り抜けられないほどの小さな孔をあけることで水を通さず、湿気を通過させることに成功しました。

ただ、撥水性の原料に高価なPTFEを用いているため、それを用いた製品の価格が高いという欠点がありました。

雨や水滴の大きさは100~3000マイクロメートル程度であるのに対して、水蒸気の粒子は0.0004マイクロメートルであるので、もっと安価な素材で雨粒よりも小さくて、水蒸気粒よりも大きい孔の開いた膜を作ろうとしました。

疎水性ポリウレタンによる超微細孔コーティング:「エントラント」

今回の記事の「エントラント」がそれに相当し、これは撥水剤を加え、疎水性(水になじまない性質)にしたポリウレタンを、水となじむ有機溶媒に溶かして布地にコーティングした後、水に漬けるとポリウレタンは固まります。
しかし同時に、ポリウレタンと共存している有機溶媒が水に溶け出し、そこが微細な孔になることを利用して多孔質膜を作っています。

これは「ゴアテックス」に比べて安価です。

しかし、有機溶媒の存在範囲によって孔の大きさはややまちまちであり、正確にコントロールすることは困難です。

その結果、透湿性は高いのですが、防水性がやや低いという特性があります。

繊維製品消費科学Vol.23No.9(1982) より抜粋

親水性ポリウレタンを用いた無孔膜ラミネート:「ダーミザクス」

「エントラント」は東レの製品ですが、東レは同じく防水透湿素材として「ダーミザクス」という製品も販売しています。

これは何が違うのでしょうか?

「ダーミザクス」という製品は孔が開いていないポリウレタン膜を使用し、布地にコーティングではなくラミネートすることでその機能を付与しています。

その時に用いるポリウレタンは撥水性ではなく、逆に親水性(水を積極的に取り入れる構造)にすることで、ポリウレタンに入った湿気は拡散し、外部に放出されるという仕組みです。

この手法は、ポリウレタンに物理的な孔は開いていないため、防水性は非常に高いのですが、透湿性という点では「エントラント」に比べて劣ります。

東レは、この2つの素材をコストや用途に応じてすみ分けて、展開していたようです。

ナノファイバー膜ラミネートで「ダーミザクス」を一新

というわけで、「エントラント」と「ダーミザクス」は、いずれも東レが以前から販売している製品ですが、今回の記事はこの「ダーミザクス」が新しい技術で一新されたというニュースでした。

その新しい技術が、ナノファイバーです。

これまでの技術だと、水蒸気の粒子だけを通すような0.0004マイクロメートル(ナノメートルに換算すると0.4ナノメートルになります)の孔を繊維で作ることは不可能でした。

それは水蒸気の粒子が0.4ナノメートルであるのに対して、繊維が太すぎるからです。
現在超微細繊維と言われている繊維でさえ、その太さは0.5~5マイクロメートル(500~5000ナノメートル)と、これでも水蒸気の粒子に比べてかなり大きいのです。

しかし、繊維を数ナノメートル以下に細くすれば、それを織り重ねることで0.4ナノレベルの孔が作れるようになります。

それを可能にしたのが、エレクトロスピニング法という紡糸方法です。

繊維の原料であるプラスチックを溶かして細いノズルに充填し、高い電圧をかけて噴流に乗せながら糸を引き伸ばし、極細繊維を積層させることで膜を作ります。

この方法だと、繊維の種類はポリウレタンに限定されません(実際、バイオ由来由来原料を用いるというような記載もあります)。

また、電圧の調整などによって、これまで以上に膜厚や孔の大きさなどをコントロールできる可能性があります。

ナノの時代到来

高度な技術は最初はかなり付加価値の高い技術、あるいは緊急性を要する技術で普及します。

あのテフロンでさえ、当時はあまりに高価であるがゆえ、持て余していました。
しかし皮肉なことに、原子爆弾を製造する際、危険な原料を安全に取り扱うための不可欠な材料としてはじめて実用化され、真価が認められました。

一旦価値が認められると、色々な応用での需要が高まり、それに伴って価格も下がり、「ゴアテックス」というファブリック素材として我々が実際に手にすることができるようになりました。

ナノテクノロジーも当初は半導体分野で実用化されましたが、今や化粧品などにも応用され、かなり身近な技術になってきました。

繊維においてはまだ高価な技術であるような気もしますが、今後はこれまでこのBlogで解説してきたような繊維分野においてこのナノファイバーが用いられることによって、機能性や意匠性などのレベルが一気に向上する可能性があると考えています。

関連記事:防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 前編