防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 前編

繊維

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2022年7月8日付の繊研新聞の記事

 「東レの防水透湿「ダーミザクス」 高通気のエレクトロスピニング膜を開発」

この記事を要約すると、「東レの防水透湿素材には「ダーミザクス」、「エントラント」があるが、今回ダーミザクスで、エレクトロスピニング法を使った膜を開発、新たに採用することになった」

ということになります。

いろんなワードがてんこ盛りで何が何だか…。

色々調べて、「ダーミザクス」と「エントラント」は東レのテキスタイルブランド、そしてエレクトロスピニング膜というのはナノファイバー膜のことでした。
スポーツ・アウトドアウェアに用いられている防水透湿素材といえば、「ゴアテックス」しか知らなかったので、また色々調べてみました。

今回はまず「ゴアテックス」についてだけ説明します。

防水透湿機能 ~禅問答のような要望に回答を与えたのがゴアテックス~

雨は通さないけれど、湿度は逃がしたい。確かに真夏にナイロン製のカッパを着たときを想像していただければ良いと思いますが、雨に濡れたくないので、プラスチック製の何かで体を覆ってみたものの、サウナスーツのようになってしまい、この湿気だけ外に逃がしたいんだがな….という要望は当然出てくるでしょう。

これに最初の回答を与えたのが「ゴアテックス」です。

いろんなスポーツブランドがゴアテックスを採用しています

「ゴアテックス」にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)つまりデュポン社のテフロン™が使われていました(!)。

ここでなぜ ! と書いたかというと、テフロン™は通常高価な樹脂であるからです。

フライパンなどの加工で有名ですが、例えば、化学の世界においてPTFEはあらゆる酸、アルカリ、熱、溶媒に安定で、また撥水性も高いため、実験用器具にも用いられています。

しかし、同じく実験用にポピュラーに用いられる硬質ガラス器具に比べて、かなりの価格差があるのです。

そのため、産業分野において、例えば工場の製造ラインをすべてPTFEコーティングします。などと聞くだけで、ほぅ……製薬製造ラインかしら….と思うわけです。

そんなバカ高い素材を使っているなら、そりゃぁ「ゴアテックス」のパーカーが高いわけだ….恥ずかしながら、初めて納得しました。

さらにPTFEは素材自体が高価なだけではありません。

この記事に記載したポリエチレンなどのように溶融して成形することも難しいのです。

そんなPTFEを薄い膜にしたら面白いんじゃないかと考えたゴア氏が、PTFEの粉末を潤滑剤とまぜてペースト状にして予備成型したのち、高い熱をかけながら一気に薄く引き伸ばすことで薄膜を作ることに成功しました。

また、その膜をよくよく見ると、微細な孔(1平方センチメートルあたり14億個以上)が開いていたのでした。

もともと高い撥水性を有するPTFEに極微細な孔が開いていることで、水は通り抜けずに、水蒸気だけを逃がす面白い機能があることもわかりました。

作ってみてから用途を考えることはよくあることです。

とはいえ、この膜は非常に薄くて何より化学的に安定であるため染色性などは当然ありません。
また、何より高価なので、この膜の表や裏に他の生地を貼り合わせることで、ゴアテックスファブリックを作りました。

繊維学会誌Vol. 41, No.11(1985)より抜粋
これがPTFE膜 これを見るとああ…なるほどこれはテフロンの膜だと思えます

これをアウトドア用品のメーカーがテントに採用し、その後アウトドアウェアにも採用されることになりました。

ゴアテックスの詳細については、このサイトがとても詳しいので、是非興味のある方はご覧ください。

優秀な技術がさらなる技術のヒントとなって、産業は発展する

「ゴアテックス」という技術が生み出されると、他のメーカーも黙ってはいません。

実際、特許情報を調べると、日本における「ゴアテックス」の特許は一旦登録されたものの、住友電気工業や日東電気工業によって特許無効審判請求(特許を取り消すように特許庁に申請すること)が出されました。

両社とも、この特許が出願される前に、何らかの形で同じような内容の技術を発表していることから、ゴア氏の発明は周知の技術(出願する前から、誰もが知ろうとすれば知ることができた技術)であると主張しました。

両社の請求はいずれも認められ、「ゴアテックス」の特許は結局無効となりました。
(ただし「ゴアテックス」という名前は商標登録されているので、商標としては保護されています)

また、その後、東レ、三菱(三菱の技術は紙面の都合上割愛しますが、こちらも面白いです)などを中心に、防水透湿素材戦国時代へと突入します。

次回記事:防水透湿素材のまとめ ~ゴアテックスにつづけ~ 後編