こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
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今回はプリーツ加工について調べようかと思っていたのですが、技術的にはそこまで面白くなかったので、さらに色々漂っていたところ、 ISSEY MIYAKEのPLEATS PLEASE(つくづくこのネーミングはとても良いと思います)にたどり着きました。
そしてその特殊なコンセプトや技術などを色々調べていくと、面白い事例を見つけました。
今回はデザインの模倣について、少し考察してみます。
PLEATS PLEASEとは
三宅一生氏は、「一枚の布」で身体を包むことにこだわったデザインを追求してきたそうです。
1988年女性の社会進出が顕著になり、女性の丸みのある体を一枚の布で包み込むようにすることで体型に関わらず着心地の良さと動きやすさ、美しさを両立させる服を作りたいという思いから、プリーツのデザインに着手したとのことです。
当時からプリーツ加工技術はあったようですが、洋服が縫製まで終えた後に全体に細かくランダムなプリーツをかけていくため、高い技術が必要でした。
これを実現したのが宮城県の白石ポリテックス工業株式会社で、開発から5年かけて1993年にPLEATS PLEASEというブランドが完成したとのことでした。
完成から30年近く経っている今もブランドは健在です。
2022年秋冬モデルを覗いてみたら、これまでの落ち着いたデザインから一新され、ポップな感じに仕上がっています。
また、見た目からしてとても軽そうで、この猛暑にも涼しく着れそうな印象を受けました。
その後、リサイクルショップで実物を! かなり伸縮性があって、シャリ感があり、プリーツが細かい…..中古でも30000円…さすがのお値段でした。

「プリーツプリーズ事件」からデザインの模倣について考える
デザインは著作権法・意匠権法・不正競争防止法などで保護されている
私は法律に詳しくはないのですが、こちらにも示したように特許や商標、意匠などの知的財産権について関わることも多いため、ほんの少しであれば理解できます。
知的財産権というのは、人間が一生懸命考えて創作した物事を、創作した人の財産として権利を保護するための権利です。
具体的には
・特許権(発明に関わる)
・実用新案権(新たな考案に関わる)
・育成者権(植物の新品種に関わる)
・意匠権(製品のデザインに関わる)
・著作権(作品に関わる)
・商標権(商品やサービスの名前やマークに関わる)
があります。
「創作した人の財産として権利を保護する」というのは、具体的には
・創作物が創作者のものであることを証明できる
・第三者が真似できないようにする
・その人が創作したことを証明する
・それを第三者が使う場合には対価を請求できる
ということになり、それぞれ法的権利として保護を受けることができます。
このうち、デザインに関わるのは、意匠権法、著作権法だと思われます。
また、不正競争防止法による商品形態模倣規制というものもデザインの保護に関わっています。
「プリーツプリーズ事件」の概要と判決内容
平成11年6月29日の東京地判での判決記録を読むと、原告は三宅デザイン事務所で、名鉄百貨店と販売店(被告)を相手に、三宅一生氏がデザインした「プリーツ・プリーズ」に類似した商品を製造販売したとして、不正競争防止法に基づく損害賠償請求を求めました。
この場合は、まず当たり前ですが、両商品の外観が類似しているかがまずは問われます。それについては、このような表現で両商品の共通性を定義しています。
『滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状のランダムプリーツ(幅が一定しないひだ)が、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含めて全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的な意匠を構成する』
…文章にするというのは、まったく大変なことですね。
そして、さらに原告が真似をされたというのであれば、原告の商品が真似をされるだけの知名度があり、消費者が被告の製品(ニセモノ)を原告の製品(ホンモノ)と誤って買ってしまうおそれがあるかどうか、ということが問われます。
たとえば、もし上記の条件がクリアできなければ、類似したデザインになったのは単なる偶然である。あるいはそのデザインは他の目的上必要であったのでそうなっただけであり、消費者は必ずしも「原告の製品だから買う」というわけではない。などという反論が通ってしまいます。
しかし、東京地裁の判断は、原告の製品が、販売当初からファッション雑誌や新聞に頻繁に写真付きで取り上げられて全国的にヒット商品としての評価が定着している点、
また、著名な服飾デザイナーである三宅一生の『イッセイ・ミヤケ』ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝されてきた点から
『原告の商品等表示として消費者の間に広く認識されているもの』として
・被告の製品は、原告商品の形態に類似している
・被告の製品は取引者や消費者にとって原告商品との混同を生じるおそれがある
と判断し、不正競争防止行為に係る損害賠償として名鉄百貨店と販売店にそれぞれ10万円を支払うよう命じました。
10万円という金額は、1つは名鉄百貨店の1店舗で地域が限定されており、かつ販売から2カ月程度しか経っていないことなどが考慮されたようです。
それでもこの判決は、三宅一生のブランドの知名度と独創性があってこその結果であったといえます。
とはいえ、模倣行為を証明することはとても難しい
というのも、これらのデザインに関する模倣のニュースは沢山耳にするのですが、実際に損害賠償まで認められたケースというのは非常に少ないらしいのです。
まだ記憶に新しい類似案件としては、佐野研二郎氏によるサントリーのトートバッグ騒動や、東京オリピックエンブレムに関する騒動などがあったかと思います。
これらはいずれも「騒動」と記載されているように、結局特段の訴訟沙汰にはなりませんでした。
当時ワイドショー的なメディアがこぞって元作品と研二郎氏の作品を並べては「明らかに似ているよね」と騒ぎ立てていて、実際私も面白く傍観していました。
しかし、最終的には、これら一連の作品が元作品の著作権に抵触している、とまでは至らなかったのです(ご本人が認めたので真似はしたのでしょうが)。
前者は懸賞企画であり、後者は公募デザインであったことで、実取引に対する関与が薄いこともあったかもしれませんが、何より類似しているかどうか、元作品がなんらかの知的財産権で保護されていたかどうか、あるいはそれがない場合は、ISSAY MIYAKEのように明らかな知名度や創造性があったかどうかについての明確な決め手が欠けていたためであるといえます。
PLEATS PLEASEは世界のISSAY MIYAKEブランドとして孤高の存在である
裁判所も認めた孤高のデザイナー、ISSAY MIYAKEがデザインするPLEATS PLEASEは、やっぱりすごいんだな…と最後は結構安直な〆ではありますが、痛感した次第です。
ところでPLEATS PLEASEの販売価格帯はワンピースやオールインワンタイプで平均4万円、ボトムスで平均2万円です。そこまで高額ではなくて、なんとなく安心しました。