こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。
ファッションの正解は人それぞれ。
でもそれは科学(客観的データ)×心理(個人的嗜好性)で説明できます。
是非、私と一緒に、「あなたが本当に着ていて自信の持てるコーディネート」を探してみませんか?
詳細はこちらの診断メニューをご覧ください。
またお申込みやご質問はこちらのお問い合わせからどうぞ。
***
私はまだ使ったことがありませんが、洗濯時の柔軟剤として普通に使用することで、乾いた際にシワの発生がかなり軽減される製品があるということで話題です。
実際に試してみて、「ホントにシワがない!」と驚いているサイトなども見つけました。
私は新製品が出ると、必ず製品パッケージの裏の成分表示をついつい見てしまうのですが、ほとんどは企業秘密になっていて、ちゃんとした物質名の記載がないため、技術の原理や詳細は分かりません。
そういうときには特許(出願)明細書を見るべしです。
特許=実際に使用されている技術ではないことも多々ありますが、特許明細書には、その発明の背景や先行技術(その発明以前から存在していた既存技術)なども記載されているので、その技術の大枠を把握することができます。
シワを防ぐ柔軟剤は主要メーカーはいずれも販売しています。
少し調べたところ、3つの主要製品がありました。
・P&Gレノアリセット
・花王エマール
・ライオンしわスッキリソフラン(2013年より生産中止)→アクロン
つまり、シワ防止を謳う機能性柔軟剤市場は一応主要メーカーいずれも展開されています。

570mL. ¥495 (amazon.com)

500mL. ¥231 (amazon.com)

450ml ¥298円 (LOHACO)
シワを防ぐ成分とその原理
3社共通要素は「シリコーン」か
そもそも、柔軟剤はマイナスの電荷を帯びた繊維を、プラスの電荷を帯びた界面活性剤でコーティングすることで、洗濯時、乾燥時に繊維同志がお互いが絡まりにくくしたり、やわらかい風合いを与えたりするものであり、柔軟剤を加えないで洗濯するよりもシワはある程度防ぐ効果があります。
しかし、その効果は劇的なものではないため、新しい成分でそれを補っています。
P&Gと花王の特許情報を見比べると、アミノ変性シリコーンをシワ防止の主要成分として挙げている例が多いようです。
アミノ変性シリコーンは、新規物質ではなく、信越化学工業やデュポン・東レ・スペシャルティ・マテリアルが化粧品や繊維加工剤として製造販売していているため、これを配合しているものと予想されます。
構造の一部をアミノ基に変える(変性する)と繊維や髪に吸着しやすくなるため、繊維の表面や髪のキューティクルをコーティングすることで艶や滑らかさなどを与えます。
シリコーン樹脂というのはケイ素(Siシリカ)という、砂にも含まれている元素が酸素と結びついて高分子化したものです。
分子量の違いによってオイル状、塗膜状にもなります。
化学的に安定で人体への影響が少ないことから、医療・美容材料や化粧品、シャンプーなどにも使われていて、少し間にそれが逆に髪の健康に悪いとされ、ノンシリコーンシャンプーがもてはやされました。
つまり、シャンプーにも用いられているシリコーンがこれらの柔軟剤にも配合されているということがわかりました。
しかし、このシリコーンもかなり以前から柔軟剤に配合されており、特に目新しい技術ではなく、もともとシリコーンを柔軟剤を配合することである程度洗濯シワは防止できることが知られています。
今回、改めてシワ防止効果が脚光を浴びている理由はなんでしょうか?
特許をさらに読み進むと、シリコーンの分子量(分子の大きさ)としてより高分子のグレードを使用することで繊維にさらなる弾力性を与え、より効果的にシワを防いでいることを主張しています。
高分子化することで水への分散性などは難しくなるところを、他の成分の配合など様々な工夫で改善していることで、特許性(その技術が新しく(新規性)、産業上の利用価値が高いこと)が認められ、無事登録されています。
(登録されると、晴れてその技術を出願人が20年間は市場で独占的に行使することができます)
独自の補助成分を配合することで差別化 P&Gは生糸成分に着目
一方、P&Gの販売戦略やプレスリリースを見てみると、繭玉から着想を得たファイバーケア成分について強く推しています。
これは着用や洗濯を繰り返すことによる繊維の毛羽立ち、さらにその毛羽立った繊維同志の絡まり(毛玉)をファイバーケア成分が繊維をコーティングすることで防ぐという作用であるようです。
ファイバーケア成分についても、それほど新しい技術ではなく、化粧品産業ではすでに研究しつくされていて、シルク成分が配合された化粧品をご存じの方もいらっしゃるのではないかと思います。
生糸はもともと2本の糸(フィブロイン)とその周りをコーディングしているセリシンという物質からできていて、特にセリシンは水に溶けやすい性質を持っています。

これらの成分はそれぞれ抽出することで、別々に取り出すことができます。
また、両者とも繊維や肌に滑らかさや柔軟性を与えることも知られ、配合化粧品や繊維加工剤としての販売実績もあります。
P&G社の製品は他社品と比べて、1.5倍ほど価格が高いこともあり、化粧品分野にも用いられている比較的高価な成分を配合することで、一歩抜きんでた付加価値と、それに見合うシワ防止効果やダメージケア効果が発揮されているのかもしれません。
とはいえ、企業秘密 詳細は明かしません
特許明細書を読むと、ある程度この成分がどういう構造のものなのかがわかります。
企業は新しい発明を見つけたら、製品化する前にその技術内容を明細書としてまとめ、特許庁に出願します。
出願すると1年半で自動的に公開されるため、誰でもその内容をみることができますが、それまでは研究論文や学会発表などで報告されていない限り、ブラックボックスの技術です。
もしそれぞれの製品にまだ公開されていない特許技術を使用されていたならば、今回の解説も誤っている可能性もあります。
製品ラベルにもそれぞれシワ防止機能については
「上質なファイバーケア成分を配合し…」「ダメージリペア技術でセンイを内側から補修…」「シルキータッチ成分と繊維保護成分、2つの成分が繊維をコーティング,,,」などと書かれ、ボンヤリした表現になっています。
今回取り上げたシワ防止機能は、おそらくそこまで新しい技術ではなさそうですが、柔軟剤は今や色々な機能を複数兼ね備えており、毛玉防止や消臭、芳香成分の長時間維持なども謳っています。
色々な成分をうまく組み合わせながらユーザーの多様な要望に応えていることがわかり、とても興味深いです。