ヒートテックを超える蓄熱性繊維の可能性

繊維

こんにちは! 理系スタイリストのNAGです。

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今から暑い夏が来ようとしているのに、暑苦しい記事で申し訳ありません。

今回は新しい「蓄熱性素材」CWO®を添加した蓄熱性繊維について紹介します。

まだ具体的なアパレル製品にはなっていませんが、今後の開発動向が注目されます。


「ヒートテック」を超えるヒット商品になるでしょうか?

CWO®はどこが新しい技術なのか解説したいと思います。

共同印刷が開発した新しいアパレル用蓄熱性素材CWO®

住友金属鉱山が開発した蓄熱性素材CWO®(セシウム酸化タングステン)をプラスチックに練りこんだアパレル用の蓄熱性原料(ペレット)が2022年6月15日の繊研新聞に掲載されていました。

ペレットは本来「小さい塊」という意味の言葉で、まさに3-5㎜大の円柱状プラスチック原料のことを指します。

プラスチック製品や化学繊維は、ペレットを熱で溶かして型に流し込んで冷やし固めたり、繊維状に引っ張りながら冷やし固めることで作られています。

熱で溶かす過程で色々な種類のプラスチックでできたペレットを混ぜることで、様々な特性を持つ素材を作ることができます。

つまり、高い蓄熱性を有するCWO®を配合した繊維用ペレットから、冬にも暖かく過ごせる蓄熱性のアパレル製品がまもなく世に出ることが期待されているというわけです。

しかし、暖かくなる衣服は数年前からすでに多くの種類が販売されています。

パッと思いつくのはユニクロのヒートテック®です。

CWO®を配合した繊維でできた製品はヒートテック®とどう違うのでしょうか?

ヒートテック®との違い

自然の摂理に着目したヒートテック®

ヒートテック®は吸水発熱という原理を利用しています。

言葉だけ聞くとすごい技術のように思いますが、実はこれはごく自然な現象です。

真夏に玄関先で打ち水をすると涼しくなるという昔からの知恵があるのをご存じでしょうか?


これは、焼け付く地面に水を打ちかけることで、その水が水蒸気になる(気化する)際に必要なエネルギー(気化熱)を周りの空気から奪うため、涼しく感じるという現象です。

そして、この吸水発熱はその逆の現象です。

水蒸気が水になる(凝縮する)ときには逆に熱(凝縮熱)が発生します。


この現象も古くから知られています。


ウール(羊毛)やレーヨン(木材)、コットン(綿)などの天然繊維は吸湿性が高く、湿気(水蒸気)が繊維に水という形になって取り込まれることで暖かくなります。

ヒートテック®にはレーヨンが34%と最も多く含まれています。


体から常に出ている水蒸気はレーヨンに吸収され、その時に発生する熱によって暖かさを感じるというわけなのです。

「な~んだ、そんなことか。」と思われるかもしれませんが、さすがユニクロ(というか東レ)です。


その熱を逃がさないように保温性の高いアクリルを混ぜこんでいます。

さらにインナーであることを考慮し、体に直接触れること、洗濯に耐えられること、伸縮性を出すため、ポリエステルなどの化繊をブレンドし、総体的に高い性能を持たせることに成功しました。

実際、2003年に販売を開始したヒートテックは一時売り切れになるほど人気が出て、15年後には累計10億枚まで売れたそうです。

ただし欠点もあります。


発熱効果は無限ではなく、繊維がそれ以上吸湿できなくなると発熱効果はなくなってしまいます。

そのため、登山をする方にとっては汗を多くかいたりすると、それが気化することでかえって体が冷えるので、注意すべき、というような記事もありました。

色を損なうことなく持続的な発熱を促すCWO®

今回紹介されているCWO®という素材は、近赤外線吸収物質です。

熱線となる赤外線を透過させないため、省エネ材料の原料として開発されました。

車や建材の窓ガラスなどのフィルムやコーティング剤に利用されています。

このような赤外線吸収物質というのは以前からあったのですが、そのほとんどは何らかの色がついているため、製品にもその色が影響してしまいます。

一方、CWO®は可視光線の通過を妨げることなく、熱源である赤外線だけを効果的に吸収します


CWO®を窓ガラスに塗布すれば部屋に光を取り込みながら熱だけが通過しにくくなるという効果が得られます。

CWO®の強みはまさにこの特性にありました。


共同印刷はCWO®はカラーリング要求の高い繊維の色彩に影響を与えずに高い赤外線吸収性能を得られるというところに着目して、アパレル用繊維としての活用を期待しています。

この機能の秘密はCWO®の結晶構造にあります。


CWO®はタングステンにセシウムを少し混ぜることで元素同士の格子距離を変化させています。

その結果、可視光線は通過できるけれど、赤外線の波長だけが通過できない特殊な結晶構造を形成させています。


またナノレベルに粒子化する際の製造方法の工夫で、ごく少量の配合で性能が発揮できるようにしています
(実際、CWO®は青い色をしていますので、大量に配合すると製品は青くなってしまうかもしれません)

さらに調べると、現在さらに結晶構造を工夫することで、CWO®よりもさらに薄い色の素材が開発されているようで、最終的には無色透明の素材を目指すとのことでした。

CWO®配合蓄熱繊維で暖かくておしゃれな冬服登場?

ヒートテック®は繊維が体から発する水蒸気を取り込むことで発熱する特性をうまく活用し、体に密着するインナーとして大成功しました。

CWO®を配合した繊維は洋服の色味に制限がなく、太陽光に含まれる赤外線をずっと吸収するので、カラフルなアウトドアファッションやアウトドアグッズ、アウターなどへの活用が期待されます。

関連記事:ついに出た蓄熱性素材CWO®を活用した太陽光発熱型ダウンジャケット「HINATAダウンジャケット」

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